遠く離れた故郷に、親を置いて出てきた者にとって、たったひとつの
気がかりは、肉親の安否である。
寒い時は、風邪をひかないで元気でいてくれるだろうか、夜中のトイレ
で転んだりして、朝まで誰にも気づかれないようなことはないだろうか
とか、暑くなればなったで、エアコンの温度調節が
うまくなっているだろうか、着替えも濡れたままになっていないだろうか
とか気にすれば、きりがない。
弟の嫁が万事抜かりなくやっていてくれているのが分かっていながら
側にいて介護できない歯がゆさはかなり感ずるところである。
私が結婚して故郷を離れる時、母はさみしそうに、
「XXさんから言われたんやけどな、『私のとこは、子どもが
アホばっかりやさかい、親が心配で手元から離されんよって
みんなそばに置いて見てやり、老後は世話してもらうんや。
**(母の名)さんは、頭のええこばっかり産んで、みんな外へ
出してしもて、老後が大変や。どないするんや。』と言われたわ。
世間はそういう目で見てるんやな。」と、
あきらめながら言ったっけ。
弟が実家へ帰って来るときは、絶対に親にいつ来ると約束は
せんとおいてくれ。約束すると、時間の感覚がないから、
朝早くからずっと、外玄関の横の椅子に腰かけて、1日中
子どもが帰ってくるのを待つようになってしもうた・・と嘆く。
そういえば、この間も、「今度はいつ来てくれるんや。来てくれる日
を、マジックで暦に丸をつけてくれ、
その日を楽しみに待っているわ。」と言ったっけ。
約束は出来ないの・・・約束するとお母ちゃんの体が弱ってしまう・・・
約束なしで、とんでいって喜ばせてあげるから、近いうちに行くからね。
遠ざかる故郷の街並みを電車の車窓から眺めながら、父を亡くして
今度は母もだんだん私たちの手の届かない遠い所へ
行こうとしているのか、と思うと、大粒の涙がほほをつたう。
うさぎおいしかのやま
こぶなつりしかのかわ
最後まで歌えそうにない・・・・・・・・・・