うちには忍者が一人。時々出没する。

私がいる時には、変身せずに真の姿で現われるが

主人ひとりの時は、「姿くらまし」で現われ、表玄関戸を

開閉するだけで、車のエンジン音と共に消えていく。


絶対に主人のいる部屋まで行かない。


「音はすれども姿なし、ほんにあいつは、屁のようだ」

主人は、忍者のことを「屁のようなやつ」と呼ぶ。


父親と母親の差はこうも違ってくる。


主人は幼い頃の息子に、ひとつだけある言葉を贈った。


「勉強はせんでもいい。勉強できんでも死なんけど

病気になると死ぬ。病気をすんな。」


忍者はその教えを守り、勉強だけはしなかった。

ひたすら体力を磨いた。


現在、忍者は消防士としてその本領を発揮している。

そして私の留守のときには、忍者に変身する。