「貴様!その二人をどうするつもりだっ?」
拳を強く握りながら牛若丸が吠えた。
「わかりきったこと。人質さ。
こうでもしないとあんたが言うことを聞いてくれなそうなんでな」
男はほくそ笑みながら答える。
リョーマは男に捕らえられてしまったことを後悔しうつむいた。
状況は飲み込めていないが、
自分が牛若丸の足手まといになっていると場の空気から感じとったのだ。
だが彼はすぐに得意げに顔をあげた。
男の両手がふさがってるのだから蹴りをくらわして逃げることができる。
彼はそうひらめいたのである。
リョーマは直感で動くタイプである。
ブンケイのように思考を重ねて動くタイプではない。
だからリスクを考えてから行動しようはずもなく、
思い立ったが吉日、
すぐさま男に後ろ蹴りをかましてやろうとした。
しかし、リョーマが蹴るそぶりを見せた瞬間に
男はナイフの切っ先をリョーマの首につき立て
「おい小僧、少しでも妙な真似をしてみろ。
その瞬間このナイフがお前の首を貫くからな」
と耳元で脅してくるので、
リョーマはビビって蹴るのを止めた。
「おい女、お前も同じだ。死にたくなけりゃおとなしくしてろ。
わかったな?」
男はさえちゃんにもナイフをぐっと近づけ脅かした。
だがさえちゃんには男の存在はわからないので何の反応も示さない。
リョーマはそんなさえちゃんの身を案じて
「さえちゃん、今さえちゃんが見えてないだけで俺たちはものすごく
危険な状態にある。動かずじっとしててくれ」
と言ってさえちゃんの手をぎゅっと握った。
するとさえちゃんは教室での実験や今のリョーマの表情から状況を理解し
「わかったわ」とリョーマの発言を受け入れた。
さすがさえちゃん、空気の読める子である。
一歩間違えればリョーマやさえちゃんの身が危ない。
牛若丸は手に汗握った。
「姫、本当に俺のことを忘れてしまったのか?」
男が牛若丸に尋ねた。
姫と呼ばれることに困惑しつつも牛若丸が答える。
「知らん。そもそも私は姫ではない。
さあその者たちを解放してやってはくれぬか?
お前が用があるのは私なのだろう?」
男は牛若丸の答えに呆れ首をかしげた。
「なんで忘れちまったかなー?でもまあ仕方ねえな。
俺の目的はあんたを連れて帰ること、今は忘れてることはどうでもいい。
こいつらを解放してほしければ大人しく言うことを聞け」
「・・・・・・。
わかった。言うことを聞こう。」
牛若丸は男の要求に従うことを約束した。
「よし、素直だ。それじゃあこれを両手につけろ」
男はそう言うとさえちゃんに近付けていたナイフをしまい、
代わりに手錠を取り出して牛若丸の方に投げた。
それを拾った牛若丸は手錠を自分の両手につけた。
「いいぞ。そしてら次はこっちに向かってゆっくり歩いてこい。
言っておくが少しでも変な真似をしたらこいつらの命はないからな」
「わかっておる。心配しなくてもそんなことをするつもりはない。」
牛若丸が男に向かって一歩づつ歩を進める。
そして男との距離が1mほどになった時、
ストップと言って男が牛若丸を止め、手を挙げるように指示した。
牛若丸は男の言う通り手錠で繋がった両手を上げた。
その様子を確認した男はリョーマ達を蹴とばし、
牛若丸の背後に立って首にナイフを近付けた。
「さらばだ、小僧たち。
ビビらせちまって悪かったな」
男はそう言いいながらナイフを持たない手をポケットに突っ込んだ。
「おい、お前!牛若丸をどうするつもりだ?!」
リョーマは立ち上がって叫んだ。
さえちゃんは何も見えない中リョーマが急に叫んだのでひどく驚いた。
そしてリョーマとつないだ手を強く握りしめた。
「どうするもこうするも連れて帰るだけだ。もといた世界に。
それじゃあな。」
男が別れを告げた時、リョーマは牛若丸に手を伸ばしていた。
そしてリョーマの手が牛若丸の手に触れたと思ったや否や、
リョーマ、さえちゃん、牛若丸、男の4人がその場から姿を消した。