「ウシワカ・・・丸?」
間違いない、夢に見た女剣士が目の前にいる。
彼女が俺を箪笥の位置に移動させてくれたのだろうか?
普段の俺ならそう考えていただろう。
だがなぜかこの時はそんなことを考える余裕もなく、
涙がポロポロとこぼれてきた。
悲しくて泣いていたのではない。
安堵の気持ちが込み上げて来て自然と涙がこぼれたのだ。
部屋の歪曲は相変わらず続いているが、
彼女が現れてからまるで時が止まったように感じられた。
「ブンケイ、どんなに辛いことがあっても希望は捨てるな。
これはお主の教えてくれた言葉だぞ。」
そう言って彼女が俺に近付き、冷たい手で優しくそっと涙を拭ってくれた。
「あきらめるのはまだ早い。お主ならできる。」
優しく、しかし力強く彼女が俺に語りかけた。
俺は彼女の言っていることの意味がわからず真意を尋ねたが
彼女はほほ笑んでいるだけで答えてくれない。
「なあ、どういうことなんだ?」
俺はもう一度彼女に問いかけ、肩に手をかけようとしたが、
その瞬間彼女はうっすらと姿を消した。
彼女が消えた後にはどこか甘い匂いが漂った。
俺はしばらく呆気にとられていたが、部屋の歪曲に気づき正気に戻った。
「ちょっとわからないことだらけだけどこの部屋からの脱出の方が先決だな」
俺は脱出の方法を必死で考えた。
だが窓や扉と言った出口になりそうなところは
歪曲が進んでいて脱出できそうもない。
と言うか歪曲の起こっていないところなどなく脱出できそうな所なんてない。
「どうすりゃいいんだよ!」
俺はめげそうになったが、さっきの牛若丸の言葉を思い出し、
あきらめてはいけないと自分に言い聞かせた。
何ができる?今の俺に何ができる?
俺は知恵を絞って考え、辺りを見渡した。
すると、歪曲が一番ひどい部分の中心にわずかだが黒い空間を見つけた。
台風の目のようにそこだけ歪曲が起きていない。
その部分が安全かどうかはわからない。
むしろ他の歪曲が起きている部分より危険かもしれない。
だが俺は思い切ってその黒い空間に飛び込んだ。
ドーーン!!
勢いよく何かにぶつかったようだ。
いててて、俺は助かったのか?
周囲の状況を確認しようと目をあけてみると、そこには何者かが立っていた。
白い色眼鏡をかけ、白い長めのコートを着た男だ。
背は190㎝くらいだろうか。
明らかに怪しい風貌の男に俺は、
「お前は誰だっ?!」
と強く迫った。
すると男は、
「な、なぜあの空間から出てこられたんだ!?し、信じられん。。」
と言いながら後ずさりした。
「ん?お前はあの歪曲空間のことを知っているのか?」
俺が語気を強めて問い詰めると、
「知っているも何もあの空間は私が発生させたのです。
ま、どのように発生させたかまであなたに教えるつもりはありませんがね」
男はそう言ってその場を去って行った。
俺は体の痛みがまだ抜けていないが、ここで逃がすわけにはいかないと思い
何とか立ち上がりその男を追いかけた。