一発屋 | ミニミニ小説

一発屋

高校時代は4番でピッチャー。


ドラフト1位で入団した彼は


今年で5年目のシーズンを迎えている。



期待されながらも故障がちで


気がつけば、試合に出るときは専ら守備要因。


目立った成績を残せないまま、


来期の戦力リストに載るのか微妙な状況で


シーズンは終盤戦へ。




優勝争いを続けているチームは


首位と0.5ゲーム差のまま最終戦を迎える。



延長12回表に2点を奪われ


その裏の攻撃、


1死1・2塁でピッチャーに打順が回る。


ベンチを見ると


残った野手は彼ひとり。



対するは相手のリリーフエース。


初球、155kmのストレートを一閃。


フェンスぎりぎりに上がった打球は


レフトのグラブのわずか上を超え


スタンドに刺さる。


プロ生活初めての逆転サヨナラHR。


優勝を決めるサヨナラHR。


一夜にして、彼の名前は日本中を駆け巡った。




10年後、彼は小さな居酒屋の店主だった。


結局、あの打席が最後だった。


生涯成績 2割2分1厘 ホームラン2本 打点6


カウンターに座っている2人組のサラリーマンが


テレビの野球中継を見ながら


彼のサヨナラホームランのことを話題にしていた。


「そういやあの選手、今どうしてるんだろう?」



彼は表情ひとつ変えない。


あの場面は胸の奥底にしまっておくことにしている。