ミニミニ小説
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一発屋

高校時代は4番でピッチャー。


ドラフト1位で入団した彼は


今年で5年目のシーズンを迎えている。



期待されながらも故障がちで


気がつけば、試合に出るときは専ら守備要因。


目立った成績を残せないまま、


来期の戦力リストに載るのか微妙な状況で


シーズンは終盤戦へ。




優勝争いを続けているチームは


首位と0.5ゲーム差のまま最終戦を迎える。



延長12回表に2点を奪われ


その裏の攻撃、


1死1・2塁でピッチャーに打順が回る。


ベンチを見ると


残った野手は彼ひとり。



対するは相手のリリーフエース。


初球、155kmのストレートを一閃。


フェンスぎりぎりに上がった打球は


レフトのグラブのわずか上を超え


スタンドに刺さる。


プロ生活初めての逆転サヨナラHR。


優勝を決めるサヨナラHR。


一夜にして、彼の名前は日本中を駆け巡った。




10年後、彼は小さな居酒屋の店主だった。


結局、あの打席が最後だった。


生涯成績 2割2分1厘 ホームラン2本 打点6


カウンターに座っている2人組のサラリーマンが


テレビの野球中継を見ながら


彼のサヨナラホームランのことを話題にしていた。


「そういやあの選手、今どうしてるんだろう?」



彼は表情ひとつ変えない。


あの場面は胸の奥底にしまっておくことにしている。



永遠の野球少年

両親の言うことを良く聞くその少年は


野球が大好きだった。



小学校4年生のとき


野球がしたいと母親に言うと


「しっかり勉強して、いい学校にいかなきゃだめでしょ。」


と言われ、あきらめた。



それでも野球がしたかった。



真夏の太陽の下


甲子園で野球がしたかった。


あこがれのプロチームで野球をしたかった。




中学を首席で卒業した彼は


高校へ入学。


入学式の帰りに丸坊主にした。


野球部に入った。


母親は激怒した。


でも野球を始めた。




高校から野球を始めた彼は


チームでいちばんヘタクソ。


甲子園どころか


卒業するまでに試合に出ることができるのかどうかもわからない。



彼は少し後悔したが


大好きな野球


まずは目標を「甲子園出場」から「試合出場」に切り替え


人の3倍練習した。




2年後の夏


観客もまばらな地方大会予選


1点差を追う最終回ツーアウト


彼はセカンドベースの上に立っていた。


2年経ち、代走の切り札として試合に出るようになった彼は


その試合もいつものように、緊迫した場面で試合に出た。




でも



ピッチャーが牽制球を投げた後の記憶は無い。


ひとつ覚えているのは


そのあと立ち上がれなかったことだけ。




彼は今年35歳のサラリーマン。


今でも


あこがれのチームで野球をすることを夢見て


毎日毎日バッティングセンターに通っている。