凄いぞ、振動式目覚まし時計 | トンポ・トンネ 日々イモジョモ

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凄いぞ、振動式目覚まし時計
【2月4日・日曜日】
 「日朝聾友好会」が主催する講演会に誘われた。こうした講演会に参加するのは、昨年八月に続き二回目、前回のテーマは「朝鮮ろう者にまつわる環境について」、その報告は、本誌に詳しくリポートした。(「朝鮮には聾学校がいくつ?」 467678頁に掲載)

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 開場十分前、入り口で、手話が分からず、もたついていると、桑原さんが助け舟を出してくれた。二〇一一年以降十回訪朝し、朝鮮聾協会との交流、支援活動に尽力し、朝鮮の手話にも長けている。八月の講演会の講演者だ。
 受付の隣には、朝鮮の聾者が作った傘立てを模したペン立て、指輪、毛糸の帽子などが置かれていた。
 五十余りの席は、前の方から埋まっていた。久しぶりに会うのか、笑顔と手話の輪が広がる。雰囲気は、なんとなく同胞社会の集まりに似ている。

スクリーンには、この日のテーマの「2017 日朝聾友好会 目覚まし時計の指導 藤谷明義」の文字と目覚まし時計が映し出されていた。
 顔見知りはいない。アウェー感一杯だ。そんな私に桑原さんが「これです…」と、平らなボードが付いた置時計を見せてくれた。音ではなく、振動で時間を知らせる、スクリーンに映し出された目覚まし時計だ。製作者で講師の藤谷さんも紹介してくれた。
「凄いでしょ!」、「凄くない?」
 桑原さんは盛んに同意を求める。確かに凄い。しかし、その本当の「凄さ」は講演を聞いて改めて知ることになる。

 受付を終えて知人の姿を発見! ご近所の朴さんだ。手話通訳をしていると聞いていたが、思わぬところでの出会いだ。隣の分会の李さん、少し遅れて前回の講演会にも参加していた康さん、三人が朴さんを囲むようにして座った。

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 藤谷さんは、昨年一一月上旬に五泊六日の日程で訪朝し、現地の聾者に振動式目覚まし時計の作り方を伝授してきた。写真を紹介しながらの講演は、ワクワク感の連続だった。面白い。朴さんの「音声通訳」が巧みなこともあって、引き込まれた。
 振動式目覚まし時計は高価なようだ。
 …私も寝坊が多い…三年前に自分のために第一号をつくった。これまで故障はない…
 問題は、部品だけでも一個当たりの単価が高い。コスト削減のためにいろいろな工夫を試みる。一〇〇円ショップをのぞき、秋葉原の電気街で一〇〇円のモーターを見つけ出し…。毎日、仕事を終えて二時間、一週間余りの苦闘の末、ついに「大成功!」。その試作品を五月のゴールデンウィークを前後した聾者の交流ツアーを引率していく桑原さんに委託したのだが、停電が多い朝鮮では?? それで乾電池使用に変更することに。回路が違う、より強力なモーターが…一か月の試行錯誤の末、遂にコンパクトで、電池で動く振動式目覚まし時計が完成する。「部品が五〇…それも廉価な…」写真と図表満載のマニュアル作りは、さらに苦労したようだ。そんな「苦労」を楽しんだような、藤谷さんの表情がいい。会場もヒートアップだ。
そして、昨年一一月初旬、彼は朝鮮の聾者に、それを伝授するために桑原さんと一緒に訪朝する。北京空港を経て、重たい荷物を持っての平壌空港でのやり取りも面白かった。
 到着翌日、早速「講習」だ。朝鮮聾協会の会長は縫製の専門家、若い副会長が「機械が得意だ」というので責任者に。六から十人までとのリクエストは無視され、二〇人が待ち構えていたという。十数回の訪朝で、場慣れした桑原さんのアドバイスもあって、五人一組のグループ分け。
 制作過程を説明する藤谷さんの話も機知に富み、それでいて面白い。「音声通訳」の朴さんも幾度も笑いをこらえていた。
 …四組に分けたのですが、一組と二組は、手先が器用な人がいて、それなりに…三組は仲良しグループ? リーダーを自称する人は指示するばかりで、自分では何もしない。四組は一四~一七歳、中二から高二の若いチーム、一生懸命なのだが、付いてこられない、ひよっこですよ…。
 わからないところは聞きに来る、しっかりメモも取って、教えがいがあった。
ところで、はんだ付けをするところで、突然の停電。作業は中断、急きょ電気回路、モーターの基本回路、パワーアップの方法について話す。僕の手話を副会長が朝鮮の手話で伝える。凄い集中力だ。
 次の日。九時集合、遅刻ゼロです。講習中のマナーも大したものです。こんなに丁重にされたのは生まれて初めてでは…感動しました。
一組と二組はやる気満々、グループで一つ作ることになっているのに、二つ作るって積極的です。若いグループは後れを取って、それでも一生懸命ついて来ようとする、とても可愛かった。仲良しグループのボスはミスを許しません、この日も威張っていました。
 完成段階になって振動のモーターが動かない。調べると回路ミスが原因。みんながそうです。分からないと、先んじたチームのを見て作業をしていたので、同じミスを…当然だ。そして「完成おめでとう!」。

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 三日目は、「技術力」を基準に五人を選んでのスキルアップ講座。もし故障した時の修理の方法などを話しました。時計を分解して、組み立てる、音を振動に替える仕組み、そしてモーターの…それにみんな真剣、本当に一生懸命で、その真摯な態度は素晴らしかった。レベルは高く五人とも合格です。
 終わってからの「お疲れ会」。飲んで、食べて、おしゃべりをして…。冷麺は最高、唐辛子は耳から火が出るような辛さ。 

 最後に講習の動画が紹介されたが、教える側も学ぶ側もみな笑顔だ。わきあいあいの雰囲気が伝わって来た。
 振動式目覚まし時計の誕生秘話と平壌での伝授物語は、確かに凄かった。
 滞在時のエピソードがまた良かった。上着のボタンが取れてしまう。縫製の専門家の会長に、とれたボタンが見つからないので、一番上のボタンをとって、そこにつけてくれるように頼む。翌日、戻ってきた上着を見ると、すべてのボタンがついている。ボタンを作ってつけてくれたのだ。会場にその上着が回っていたが、区別がつかない。寸分たがわぬボタンを作ってつけてくれたようだ。
 未来都市、凱旋門、金日成広場、遊園地、地下鉄、科学技術殿堂など、市内観光の写真も何枚か紹介された。四年ぶりに訪問した藤谷さんは、「ずいぶんと変わっていた。発展しているようだ」とも。
 それにしても夜間の写真が多い。滞在期間は五日間、そのうち三日は講習に費やしたので、市内観光は講習の後、夜にせざるを得なかったようだ。
凱旋門の写真が映し出されると、五~六人がエレベーターで中に入ったとのこと。入った人たちが手をあげていた。
 会場からの質問にも丁寧に応えていた。「国交がなくても行ける」、「大丈夫、全然怖くなかった」、「写真も普通に撮れた」。

 そして、平壌のお土産の抽選会、「即席冷麺の作り方は…」。嬉しそうに賞品を受け取っている。同胞社会の集まりでもよく見られる光景だ。私も当たってしまった。両手を×にして辞退の意思を表明したが伝わらない。巧みな「音声手話」を駆使する朴さんの姿に魅了されたこともあって、私も手話を習おうかとふと思った。
 振動式目覚まし時計づくりは、案内チラシに描かれていたように、「朝鮮ろう生活向上プロジェクト第一号」で、会場では「二号」、「三号」のアイデアを募っていた。
その日の夜、桑原さんからメッセンジャーが届いた。
오늘은 와줘서 고맙습니다(今日は参加してくれてありがとう)」。朝鮮語でだ。「何か新しい世界が開けたようで! お近所さんにも会ってビックリしました」と返すと、「ろう者でもいろんな技術持っている人がたくさんいますんで、私は本当にコーディネートしか。向こうのろう者もみんな笑顔で熱心で私たちと全然変わらないですし、今日のお客さんも感動した、と言う声が多かったです。そして「スタッフたちに感想を伝えたいので、短い感想お願いできますかと」。「短く」書くつもりだったが、いつものように少し、だいぶ長めのリポートになってしまった。******

*加筆して3月に刊行する『朝鮮学校のある風景』48号に掲載します。