バザー前日の東京第3・その2 | トンポ・トンネ 日々イモジョモ

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バザー前日の東京第3・その2
 
 一二時前、教員室をのぞくと、二人の教育実習生が、何やら作業をしていた。担任したクラスの児童へのプレゼントづくりだ。
 私・「実習は二週間?」
 六年生を受け持ったチョウ先生・「三週間です。あっというまでした…」
 四年生の担任になったもう一人のカン先生は、話しかけるのがはばかられるほど作業に集中していた。
 
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  バザーの支度をひと回りみて、六年の教室に行くと、二人の男子児童が机を並べ変えていた。その奥でチョウ先生が、児童に話しかけるでもなく、床を黙々と掃いていた。
 
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 教室の前面には、年間目標「以身作則」、月間目標「有言実行」「不言実行」の文字が、その隣の「今日の目標」には「チョ・ナレ先生と最後の一日を楽しく過ごそう」と書いてあった。
 この日は、教育実習の最終日、昼食を兼ねた歓送会が予定されていた。
 校舎の玄関で金校長は、「今日は、先生たちが涙を流すような、送る言葉を…思い出に残るような…」と、児童たちに声をかけていた。
 玄関の前のトイレを掃除していた六年担任の黄先生の姿が見えたので、「黄先生は、教育実習で泣きましたか?」と声をかけた。先生に声が届かなかったのか、答えは返ってこなかったが、児童たちは「泣きません」ときっぱりと言い切っていた。「今日の目標」を読みながら、そんな場面が思い浮かんだ。
 
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 教員室に行くと、カン先生が、まだ作業を続けていた。
 担当の夫先生は「誤字が見つかって…」。修正ペンで消し、正しい文字を書き込んでいた。
 「もう始まりますよ」。夫先生がからかい半分で急かす。「間に合わなかったら…」。焦っているようだ。
 
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  四年生の教室では、二人の女子児童が黒板に「歓送会 カン・チヒャン先生 ありがとう」との言葉をウリマルで書き、その周りを囲むように、ハートのマークと赤、青、黄色の花を描いていた。「환송회」を「황송회」と間違って書き、「」の文字を「」に、正しく書きなおしていた。
 
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 歓送会は、四年生の教室と、六年生の教室で同時にはじまった。
 「チョウ・ナレ先生三週間ありがとう」「歓送の集い」と大きく書かれ黒板を背に座ったチョウ先生を丸く囲むように児童たちが席についていた。黒板には、東京第三のキャラクターである「チェサミ」と「ミレ」のイラストも描かれていた。
 まずは、全員起立して「コマッスムニダ」のあいさつだ。
 チョウ先生は、笑顔で児童を一人ひとり見回していた。
 
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 五年生の教室を挟んで隣の四年生の教室では、昼食を食べ始めていた。
 カン先生は、クラスの児童のオモニが持ち回りでつくった弁当だ。担任の夫先生も同じのを食べていた。「今日で夢のような弁当生活も終わりです」。教員室で夫先生は、独り言のように話していた。「昨年は、そのまま年度末まで作り続けてくれたのですが…今年は…」。そんなことも言っていた。
 「いつまでいらっしゃるのですか」と、質問する児童がいた。
 カン先生は「実習は今日までですが、明日のバザーにも来ます」と答えていた。
 
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 六年生の教室に戻ると、チョウ先生は楊子に刺さったトマトを手にしていた。ためらうことなく、口に運び美味しそうに食べはじめた。そうだ。トマトが苦手だと言っていたのは、カン先生の方だった。
 
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  昼食が終わると、分組別の歌の発表会というより、手品あり、踊りありの「演芸会」だ。六年生の男女がなかよく腕を組み歌う姿はほほえましかった。黄先生はそんな児童を撮ったり、ときどき笑い転げるチョウ先生にカメラを向けたり、行ったり来たりしていた。男子児童の手品には、みんなが席を立って、チョウ先生をはさんで、遠巻きにして観ていた。
 
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  四年生の教室では、カン先生が児童たちの感謝の言葉を笑顔で受けとめていた。
 男子四人組は、「ワンホバク」、「ワンホバク」と繰り返しながら、何回も回り続けていた。手はオッケチュムをしているつもりのようだ。夫先生もまた、カメラを児童に向けたり、実習生に向けたり、忙しく動き回っていた。
 私と同じように六年生と四年生の教室を行き来しながら、うらやましそうに見ている一群もいた。五年生だ。
 
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 四年生の教室から六年生の教室に移動しながら校門を見ると、金教務主任がノボリを立てていた。翌日のバザーの準備だ。
 
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  六年生の教室では、一人ひとりチョウ先生に感謝の言葉を述べていた。
「授業が面白かった」、「楽しかった」、「コマッスムニダ」、「少し緊張しました」。中には、「朝大に戻ったらもっと勉強して、頼もしい先生に…」とか、「先生になったら…」など、少し上から目線の言葉を発する児童もいたりした。
 
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  チョウ先生は、そんな児童の姿を一人ひとりカメラに収めていた。
「六年生のみなさんに会えて本当に良かった。忘れません…。たくさん学べました…『(自ら)すすんで』という言葉を忘れず…」。最後に「格好いい姿で卒業して下さい」と。時折、鼻をすすっていたように見えた。
 
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四年生の教室でも、カン先生が児童たちに優しく話しかけていた。「…本当に楽しかった。また遊びに来ます。ウリハッキョ、同級生を大切して…『ミアナダ(ごめん)』と『コマッタ(ありがとう)』の言葉を大切に、喜びも楽しみもクラス全員で分かち合えるよう…」。
 
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 先生からのプレゼントを手に全員で記念写真だ。バザーの準備に来ていた何人かのオモニたちもスマホを向けていた。
 
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  六年生の教室に戻ると、机は普段通りに戻され、チョウ先生が最後のホームルームに臨もうとしていた。
 
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 帰りがけ、あるオモニは「舞踊部だという実習生に明日、大切なお願いをしました」と話していた。
 翌日のバザーに登場したチェサミとミレの動きは、いつになく軽やかだったようだ。東京第三に教育実習に来たというのに、二人のソンセンニムたちは、そのキャラクターと踊ることもできず、写真も撮れなかったという。
 
*11月下旬に刊行する『朝鮮学校のある風景』28号に再整理して掲載します。