【3月×日・木曜日】朝食の支度をしながら、コタツに座ったオモニを見ると、朝刊をペラペラとめくっていた。読んでいるようではないが、活字の中に囲まれていると、なんとなく安心するようだ。ボールペンを握って、チェックしている。よく見ると、スーパーの安売りの広告だ。「玉子×8円…」。歩けたら、小さなカートをひいていつものように買い物に行っていたのだろう。
昨日は、ポカポカ陽気に誘われて外出した。退院後、車椅子に乗っての外出は初めてだ。歩道は狭く、思いもかけぬアップダウンの連続、そしてでこぼこだ。普段はゆっくり歩いても10分の道のりだが、車椅子を押して20 分余り、汗ばんでいだ。朝、頭が痛いと、目覚めが悪かったオモニだったが、久しぶり吸う外の空気に、機嫌はすこぶる良かった。
買い物前に昼食、何を食べたい? 食べるというより、車椅子で入れる店は限られる。ましてや車椅子で入れるトイレがある飲食店というと、大手スーパーの飲食街の他ない。「高齢化社会」といわれて久しいが、車椅子を押していると、街全体が高齢者に優しいとはいえないようだ。
オモニは病院で食べてはいけないというものをたくさん食べていた。丼物とうどんのセットを注文したのだが、添えられたサラダ、生野菜がアウト、丼物は残していたが、塩・醤油は少なめにと言われているのにうどんの汁は飲みほしていた。デザートにクリームあんみつ、二人で分けたのだが、バナナ、キュウイ、ミカン、禁じられていた果物をぼたいら上げていた。「外に出ると、美味しいものが多すぎる」と、久しぶりの外食を堪能していた。「元気になったら、なんでも食べられるのだから、早く健康になって…」、「いけないものもたくさん食べられるよう、頑張ろう」と、意味のわからないことを言って励ましていた。

エスカレーターで地下の食料品売り場へ。禁じられているセンベイ売り場を素通りしたときは、少し残念がっていたが、許されている甘いもの、チョコレートを挟んだビスケットを買い物カゴに入れていた。
帰り道、近隣の小学校から下校する児童の一団とすれ違った。ウリハッキョのざわめきが懐かしい。来週あたりから、「朝鮮学校のある風景」前線に戻ることができればと思った。IK