【12月12日・水曜日】「発射」の日・下校までのひと時
「人工衛星と称する事実上のミサイル」発射というニュースに、仕事先に向かう途中、いつもの東京チェーサム(板橋区にある東京朝鮮第3初級学校)に寄った。
一階の教員室の前あたりから「早く教室に戻りなさい」。6年担任の夫先生の声だ。一カ月前の授業参観のときは体調を崩し、教壇にたてなかった先生も、いつもの元気を取り戻したようだ。
児童たちが一斉に階段を上がっていった。6、7人の男女児童が校長室の前の廊下で、作業を続けていた。
私・「何をしているのですか?」
夫先生・「クリスマス会の準備です」
2人の児童がパネルを持ちあげ、そのすき間に入った女子児童がうつ伏せになって、手を延ばしセロテープで赤い紙を固定していた。目が合うと、一斉に「アンニョンハシムニカ」だ。
教員室前の「オモニ会」の掲示板に貼られた会報には、「オリニフェスタ」と称して週末に催される、クリスマス会の案内が記されていた。その他、バザーの収益金が63万2.155円だったこと、そして先月17日に行われた2013年度新入生の健康診断に14人が来校したことが書かれていた。

会議室であり、舞踊などの練習場でもある部屋から「ハナ、トゥル…」の勇ましい声が聞こえてきた。低学年児童のテコンド教室だ。戸が閉まっているので、のぞくことはできなかった。戸のすき間から道着姿のチビッ子が手を前に突き出す様子が見えた。入り口に並べられた上履きの数からすると、少なくても10人以上が練習に励んでいるようだ。

教員室では、1年担任の黄先生がストーブに石油を補充していた。金教務主任と、5年担任の成先生はパソコンに向かっていた。
1階から2階に上る階段の壁には、学校の創立67周年を祝う色とりどりのポスターがぎっしりと貼られていた。
「学校を綺麗にしよう」とか、「いつも学校を愛そう」とか、「第3を輝かせよう」とか、児童の決意が記されていた。カラフルな文字が画用紙の中に踊っていた。

低学年の教室が並ぶ2階は静まっり返っていた。すでに下校したようだ。
それでも1年生の教室の前のハンガーには、何着ものジャンパーやコートがかかっていた。
テコンド教室の児童のもののようだ。
2年生の教室をのぞくと、女子児童がひとりで座っていた。
私・「帰らないの?」
児童・「オンニを待っています」
私・「何年生?」
児童・「3年生です」
恥ずかしそうだが、受け答えの言葉はしっかりしていた。もちろんウリマルでだ。
その3年生の教室に行くと、いくつかのランドセルが机の上に置いてあったが、人影はない。
隣の音楽室から声がした。のぞくとピンクのチョゴリを着た全先生が3人の児童を前に、手振り身振りを加えて何かを説明していた。チョゴリは肘までたくしあげ、いつものようにメガネは目にではなく、頭に引っかけていた。
「ナマコンブ」、居残り勉強のようだ。来週から期末試験だ。

2階の高学年の教室は、どの教室をのぞいても、児童たちはノートやプリントに何かを書き込んでいた。授業というより、試験を前にしての集中学習のようだ。5年生の教室からは金校長の大きな声が。日本史のミニテストだ。窓際の男子児童が、カメラを向ける私に大きな口を開けて、声を出さずに「アンニョンハシムニカ」をしてくれた。

高学年の下校時間だ。校庭に三々五々集まり始めた。
「ナラニハジャ」-6年生なのだろう、少し命令口調で並ぶよう促す声が校庭に響き渡っていた。
「大山方面は2列、赤羽は…、千川方面はまっすぐ並んで」、最上級生の声だ。
「並んだ順で出発します」。夫先生の声だ。
夫先生と一緒にスマホで、「衛星」の軌跡をおっていると、児童たちが寄って来た。
口をそろえて、「クェンジャンハダ」、「すげー」だ。「本物ですか?」と訊ねてくる児童もいた。

校舎の玄関で靴を履き替える児童にカメラを向けようとすると、正面の入口の前に掲げられた二つのスローガンが目に飛び込んできた。1か月前の公開授業のときにもあったのか、記憶にない。
「はばたけ! 未来に! 100年たってもウリマルを守ろう」と「名声をとどろかせよう! 私たちの学校! ウリマルが中心!」。力強い言葉だ。
今年度は「ウリマル模範校」の称号獲得を目指しているが、その覚悟がうかがえた。
終業式の前日には、全校生による恒例の「ウリマルマダン」が催されるが、今回はクイズ大会だ。玄関に貼り出された大きなポスターによると、昼食時間に流れる音楽を聞いて歌詞を当てる「聞き取り検定」と、「1週間のウリマル」で提示された言葉を使って問いに答える「会話検定」の2本立てだ

長めのジャンパーやコートに身を包んだ児童が次々と校門を後にして行った。
交通安全の黄色いランドセルカバーをした1年生も混ざっていた。テコンド教室の児童や、居残り勉強をしていた低学年の児童も一緒のようだ。男子児童は大きな声で、「ハナ、トゥル」と掛け声をかけ、歩調まで合わせていた。
「6年生です。卒業を意識してか、何をしても楽しんでいるようです」。と言いながらも、金校長は児童を心配そうに見送っていた。

自転車をひいた巨漢の5年担任の許先生がしんがりを固めていた。最寄りの私鉄の駅まで東京で指折りの長い商店街の中を10数分、気をぬくことはできない。

児童を見送って教室に戻ってくると、黄先生は「学校通信」を見せてくれた。
私・「何かビックニュースが載っているのですか?」
先生・「凄いですよ。何よりも関東大会でサッカー部が準優勝を果たしました。それに漢字検定試験で合格率が過去最高の90・5%、2人が満点でした」
11月24、25の両日催された関東大会には12校が参加、「準優勝」のタイトルには「!」が三つもついていた。
黄先生は、「ドラえもん全国作文コンクール」で、「藤子プロ特別賞」と2年連続「陰山賞」を受賞したと、嬉しそうに話していた。「ドラえもんコンクール」で必ず入選すると思っていたので、その発表まで「通信」の発行を送らせたとも。「通信」は、児童の活躍満載だ。

話題は、今年の漢字一文字に移った。すでに教員室には「金」の文字が貼り出されていた。
「金とはね…」、「確か、夫先生が『金』と言っていませんでした?」。そんな会話が交わされていた。
毎年、チェーサムでは児童による「今年の漢字」が募集され、応募もしてている。
11月下旬の集計によると、1位が「復」と「新」。地震の復興と、アイフォン、Iパットなど最新機器からだ。
2位は「五」、「笑」、「改」、「転」、「輝」、「領」、「変」、「争」。「五、輝、争」はオリンピック、「改、転、領、変」は政治的意味合いからだ。
電話が鳴った。「○○学校の○○○が取ります」。2年担任の金先生は、それ以上なにも言わずに受話器を置いた。保護者からの下校の問い合わせではなく、「無言」電話だったようだ。
教員室で某先生が近隣の保育園から送ってきたリンゴを8等分に切った後、むき始めた。
「丸ごと剥けないの?」。余計なことを言ってしまった。
金校長が一言、すると3年担任の全先生も一言、黄先生はカメラを向ける始末だ。
今年、新任の2年担任の金先生は、黙って見ていた。
金校長は金先生にむかって「チグム ナソミョン アンデンダ」と笑っていた。
それにしても包丁を握る手がぎこちない。口に入ってしまえば同じことなのだが…。
「見送り組」が戻ってくるまでのしばしの「和みの時間」だった。
