連載中の「統一評論」(2010年6月号)の原稿に加筆
朝鮮学校のある風景-その三 ③
四月は入学式に公開授業
■熱気むんむんの公開授業
毎年、四月最後の祭日は、公開授業の日である。二時間の授業と教育会とオモニ会の総会を兼ねた学父母全体会議、その後、低学年の学年別懇談会と高学年の体育クラブ会に、オモニ会の役員会と、盛りだくさんのスケジュールが組まれている。
行事が午後にまで及ぶので、二階の廊下では、オモニ会がコーヒーとパンの販売コーナーを設けている。なかなかの盛況だ。
「○○トンムのアボジ!!」
この一言で、アボジたちの手にはコーヒーのカップが握られていた。
どの教室もカメラやビデオ片手のアボジとオモニで一杯だ。
以前は、授業参観といえば、学父母にいいところを見せようと、質問をしたら全員手を上げること、答が分からない場合は親指を曲げて手を挙げるよう、リハーサルのようなことをしていたこともあると聞いていたが、いまはそんなこともなく、極めて自然体だ。
いつものことを、いつものようにしている先生と児童に対して、かえって緊張するのは学父母の方かもしれない。
一年生は音楽の時間だ。
「音楽の時間になりました。ラララー」。児童たちは歌いながら肩や首を回す。
児童が「飛行機、自動車、新幹線」と歌うと、先生が「何が好きですか」と歌で問い返しながら、黒板に貼られた飛行機、自動車、新幹線の絵を示す。すると児童は、「飛行機」、「新幹線」などと歌で応じる。
入学して間もないというのに、すべてウリマルである。
二年生は日本語の授業。この日のテーマは「はたらく自どう車」、「人をはこぶ自どう車」、「にもつを運ぶ自どう車」、「いろいろなさぎょうをする自どう車」。黒板一杯に自動車の絵が貼られていく。
三年生は算数、足し算を混ぜた掛け算。四年生は国語で、五年生は理科で、六年生は歴史、「わが国の初の封建性国家」である。
黒板に「平壌城」、「東明王」のカードが貼りだされると、廊下で見ていたオモニの中からは思わず、「チュモンよ」、「チュモン」の声が。韓国ドラマの「朱蒙」を連想したようである。
二時間目は、一年生と三年生は国語で、二年生と四年生は算数、五、六年生は日本語の授業だ。
日本語の時間は二学年とも、初めの一〇分余りは漢字の練習、日本の文科省認定漢字検定試験で三年連続「学校特別賞」を受賞しただけあって、漢字教育には力を入れているのかがうかがえる。

五年生は岡野薫子の「おくりもの」が、六年生は安房直子の「青い花」が教材になっていた。
日本語の時間の他は、すべてウリマルで授業が行われていたが、理科の授業は、尾びれ、背びれ、腹びれなどの単語は朝鮮語と一緒に日本語でも教えていた。
驚いたのは、一年生の国語の授業だ。机の上にノートがないのだ。
「アンニョンハセヨ
アンニョンハセヨ
私の名前は○○○
あなたの名前は○○○
今日から仲良し
仲良く遊びましょう」
と、振りを付けた歌から始まる。
そして、「名前は何ですか」、「アンニョンハシムニカ」、「これは何ですか」、「ここはどこですか」の問いに対して、先生と児童が、また児童同士が、時には向かい合い、時には手をとり、教室を行ったり来たりしながら、繰り返し答える形で授業は進められていた。
入学当初に、自分の名前を書く練習はするが、授業の中心はあくまでも話し言葉で、文字は五月の下旬になって、習い始めるというのだ。だからノートがなかったのだ。
ウリマル教育に力を入れている学校として、全国に知れているだけあって、どの先生も発音も、イントネーションも見事だ。
男性の先生が少ない条件の中で、校長と教務主任は、社会や理科の科目を担当している。また、六年生担任の梁先生が四年生の日本語と五年生の地理を、成先生は六年生の歴史と、三年生を除く五学年の体育を担当するなど、少ない人員で工夫も凝らして、児童にいろんな先生から学ぶ機会を与え、それがまた授業の集中力を高め、学力のレベルアップにもつながっているようだ。

授業をのぞいたり、教室の外の廊下に貼りだされた行ってたばかりの春の遠足のスナップ写真や感想文を見たり、アボジも、オモニも、大忙しである。授業風景をカメラに収めるオモニ、児童を呼び出し「もっと字をきれいに書かなくてはだめだ」と注意しているアボジもいた。
この日、明らかに公私混同していたアボジが二人。一人は、望遠レンズを付けたカメラで盛んにシャッターを切っていた雑誌のK編集長、取材なのか、一人息子を撮りに来たのか、六月号の雑誌が楽しみだ。もう一人は、本来、同じ日に行われている東京チェ-イル(荒川区にある東京朝鮮第一初中級学校)の学父母会議に行くべきところを、娘が心配で立ち寄ったという、K支部のK委員長だ。

娘といっても児童ではなく、昨年朝大を卒業して赴任した三年生の担任である。それでも昨年は、多少遠慮がちに廊下を歩くふりをして、娘の姿をの追っていたが、今年は廊下からではあるが、教室の後ろに陣取って堂々と聞き耳を立てていた。
「娘の方が委員長よりもウリマルが上手だ」、「心配しなくても、立派にやっている」との冷やかし半分の声に、まんざらでもない表情だった。
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K編集長は、ブログ(http://blog.goo.ne.jp/gekkan-io/ )に、当日の様子を次のように書いている。
× ×
「先日、息子が通う朝鮮学校(小学校)の公開授業に行ってきました。公開授業というのは日本の学校で言う授業参観のことで、年に2回行われます。今回の公開授業では、理科と日本語の授業を見学しました。
日本の小学校の授業参観は、シーンと静まり返っているという印象です。いつもは騒がしい子どもも、自分の親が後ろに立っていると緊張するし、見学に来た保護者も黙って授業を見ているものです。○十年前の記憶なので、いまの授業参観がどのようなものかはわかりませんが。
しかし、朝鮮学校はちょっと違うんですね。
親が子どものノートを覗き込んで、答えが間違っていようものなら教えるし、子どもも親が来たら手を振るし、母親同士は授業中に教室の後ろで世間話をしているし、学校にあがる前の小さな子どもも連れてきてそこらへんを走り回っているしで、大変です。カメラやビデオを持ってきて撮影するのは当たり前ですが、堂々と教室の前に行って撮影する親もいます(これ、私です)。
先生も慣れたもので、なんら動揺することなく授業を進めます。
でも、朝鮮学校のこういう公開授業が非常に気に入っています。学校と子どもと保護者が一体となっているというか、非常に朝鮮人らしい。(2010.5.6)
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この日の学父母全体会議では、文教育会会長と洪オモニ会会長が再選された。理事の力だけでは大任を果たすことはできない。学父母と先生の力を一つにして、「児童が安心して通える学校」にするために尽力するという文会長や、いつも明るい笑顔を絶やさず、今年も頑張るという洪会長の決意表明に大きな拍手が送られた。
また、金校長からは、「昨年、『少年団活動の模範校』になったのに続き、今年は『ウリマルの模範校』と『児童を増やす模範校』を目指す」との欲張った抱負が述べられた。
× ×
今年、東京チェーサムは、学校創立六五周年を迎える。私たち一九六二年卒の一五期生は、数十年ぶりの同窓会開催の準備に取りかかっている。その様子もこの「朝鮮学校のある風景」の中で紹介したいと思っている。
次回七月号のメインテーマは運動会である。(二〇一〇年四月末日 ウリハッキョを記録する会 キム・イルウ)
*その4は、「統一評論」7月号が発売される6月18日以降に掲載します。
◎シリーズ・朝鮮学校の歩み
Ⅰ「私たちの東京朝鮮第三初級学校物語」(一九四五~六七年・証言編)
Ⅱ「朝鮮学校は民族、統一、共同体の価値を持つ宝庫』(ソウル発インターネット新聞の特集)
Ⅲ「復刻版・東京朝鮮中高草創期十年史」
Ⅳ~Ⅵ「ぼくらの旗-君はあの頃(都立)の東京朝高生を知っているか?」(三部作)
Ⅶ「私の中の一九四八年朝鮮人学校教育事件-アメリカ占領軍に抗して」
Ⅷ「続・私たちの東京朝鮮第三初級学校物語』(一九四五~二〇〇九年・体験記録編)
目次・内容などは
www4.ocn.ne.jp/~uil/tokyo3.htm
一粒(한알)出版
TEL.FAX 03-6279-3356