新国立劇場バレエ「ラ・バヤデール」(03/02、09)の感想 | まるこブログ

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バレエのレパートリーで名作古典と呼ばれるものは数あれど、個人的に一二を争うレベルで大好きな「ラ・バヤデール」を、先週末と昨日の土曜日、愛するバレエ団の4年ぶりの公演で観た。

本当は先週の舞台を観たあとすぐに感想を書くつもりだったけれど、年度末の忙しさが冗談じゃなく酷かったもので、今朝いっぺんに昨日のとまとめて書くことになってしまった。






まずは昨日のマチネ公演から。






主役は、舞姫のニキヤが柴山紗帆さん、戦士ソロルが渡邊峻郁さん、王の娘ガムザッティが渡辺与布さん。

注目の “黄金の仏像” は奥村康祐さん、生臭な大僧正は菅野英男さん、壺の踊りは玉井るいさんだった。

そして影の王国でのヴァリエーションが、寺田亜沙子さん、池田理沙子さん、木村優里さんの3人。




感想は、まずなんと言っても渡邊峻郁さんが、姿も踊りも演技も、何もかもが素晴らしかった。

彼は常にドラマ全体を考え、その役柄として演じるダンサーだが、このソロル役でもその姿勢を貫いて見事だった。

彼を見たさに買ったチケットだったけれど、その甲斐は十二分にあった。

渡邊峻郁さんは、その名で客を呼べる貴重なスターダンサーとして、新国立劇場バレエ団の中で更にステージを上げたと思った。



長らく「地味だ」と思ってきた柴山さんだったが、昨日のニキヤ役には、私は感動して目から鱗が落ちた。

もともと彼女は踊りはしっかりしていて上手い人なんだけれど、それ以上の感動を与えられたことはなく、今回の配役にしても失礼ながら期待は全く無かったのだが、それがどっこい!! めちゃめちゃ良かった!!

特に第3幕での静謐な美しさには胸打たれるものがあり、なるほどだからニキヤは柴山紗帆さんなのか…と強く納得させられた。

それに、昨日の柴山さんは、どこを取っても「地味」ではなかった。

主役の責任を全うしようとする強靭なオーラがあり、こうして人は成長していくのだという、その現場を目撃する喜びまで味わせて頂けた気がする。

私は完全に柴山さんのファンになった。



それにひきかえ…などと書いたら申し訳ないが、ガムザッティ役にはがっかりした。

バレエ団でも屈指の美女だし、「眠れる森の美女」でのカラボス役は好演だったので、むしろ期待していたのだが、蓋を開けてみれば演技も踊りも小さく、本来の美貌すら霞む出来。

「ラ・バヤデール」という作品は、ガムザッティが小さいと魅力が半減するから、これは本当に残念だった。

…とはいえ、これは彼女だけの責任ではないと思う。

今回は出演のない本島美和さんのような強いキャラクターの若手人材を、もっといろんなダンサーにチャンスを与えて育ててこなかったツケが回ってるのだと思うし、そうした中では渡辺さんは大健闘してきたのだ。

どうか次は挽回して、私に「見る目がなかったなぁ」と反省させて欲しい。







先週の2日と、昨日のソワレ公演は、全キャストが同一だった。





ニキヤは小野絢子さん、ソロルは福岡雄大さん、ガムザッティは米沢 唯さん…という、盤石なスターの揃い踏み。

大僧正は菅野英男さん、黄金仏像だけは違って2日は福田圭吾さんで9日が速水渉悟さん、壺の踊りは柴山紗帆さん。

影の王国のヴァリエーションは、変わらずに寺田亜沙子さん、池田理沙子さん、木村優里さん。



小野さんのニキヤに米沢さんのガムザッティを観るのは4年前のソロルがムンタギロフだったとき以来だが、やはりこの歳月の2人の成長と充実は著しく、文句なしに輝かしかった。

もう私なんかが、あーだこーだと感想を書くのもおこがましい。

小野さんのニキヤは、ソロルからの「愛」だけを縁に生き、それ以外の全てを生まれながらに手に入れているガムザッティの米沢さんと、火花を起こして対立していた。

もういっそこの2人が一つになってしまえば、オーロラ姫のような大団円を迎えるわけだけれど、そうはいかず2人の女性に分割したところが、「ラ・バヤデール」の最大の魅力で、それがいかんなく発揮された舞台にクラクラする。


個人的に最大のクライマックスだったのは、ニキヤがガムザッティに刃物を向け突進した場面で、あそこの2人の呼吸と、間に分け入ったアイヤ役の今村美由起さんの呼吸、そして音楽が奇跡のように合致し、まさに今そこで起きた偶然のような恐ろしい瞬間だった。


…ニキヤが、こともあろうに王の娘にナイフを向けたのは、彼女は本能的にガムザッティを消し、ソロルにとっての存在を自分だけにしたかったからだ。

しかし身分の低い彼女の行動は、狂気の暴走にしかならない。

同じくガムザッティもソロルにとって唯一の女性となるべく、ニキヤを消し去ろうと思うわけだけれど、こちらの希望はいとも容易く叶えられる。

権力は、どんな狂気も暴走も「普通のこと」として流す魔法の杖だ。

ガムザッティにとってニキヤの生命など、モノの数ではなく、彼女さえ消えれば、そこにあった「愛」は自分に移ると、ごく自然に考えている。


が、しかし、そうはいかないのが「愛」というもの。

結局2人とも、今世において得ることはできず、二兎を追ったソロルもまた…という悲劇なのだった。


このドラマがくっきりと観客に伝わるためには、やはりニキヤとガムザッティは、同格のスターダンサーでないと難しい。

その2人を受け止め、いや受け止められずに悩むソロルも、とんでもない難役だ。

福岡雄大さんの、第3幕でニキヤに置いていかれ息絶える姿には、なんだか私まで呆然としてしまった。

なんと孤独なソロル!!


これは牧阿佐美演出の中でも、屈指のプロダクションだと私は思う。

よくあるようにニキヤとソロルが2人揃って仲良く天国へ…なんて、絶対に行くわけがない。

ソロルの「こうだったらいいな」の妄想は、影の王国だけで十分なのだ!



さて…

今日はまた「ラ・バヤデール」の最終公演を観に行くので、他の主要なキャストについての感想は、これを観てから書こうと思う。

ニキヤは米沢 唯さん、ソロルは井澤 駿さん、ガムザッティは私のイチオシである木村優里さんで、今から楽しみでワクワクする。




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