Jin side 31-1.


ヌナを守る。


思い違いだった?


*******


『はぁっ...はぁ...』


信号待ちで息を整える。


走るのが遅くなった。

足が上がらなくなったのかな。

いや。

久しぶりに外でお酒を飲んだから体がふわふわしてるんだ。


家で待つヌナのために走っていると、日本でのあの日を思い出す。


ヌナを振った元彼さんの大事なところを、買ったばかりの観光雑誌で...


僕ってば。

あんなことする奴だったんだよなぁ。

みんなに話したら、顔真っ赤にして声も出せずに笑ってて。


その日は、いつだっただろう。

記憶の時系列が曖昧になるのは仕方がない。

僕の都合で、「過去」だけじゃなく。

「現在」も「未来」も変えてしまった部分があるから。


僕が、その代償に不確定な何かを被るくらい。

どうってことないんだ。




数年前に突如現れた透明な猛威も、世界的に落ち着き始めた今。

珍しくクライアントから食事に誘われた。

断っても良かったけど、最近は外に出るきっかけがなかなか見つからなかったから。

正直いい機会だった。


***


『いいじゃない!やっぱり顔を見て話すことで仲は深まると思う。あ、ねぇ...お相手の方って...』


『男性に決まってるでしょ!』


***


顔を真っ赤にして、ヤキモチを証明したヌナがたまらなく愛おしかった。


それなのに。


『ヌナ、もう寝ちゃったかな...』


少しの間、解放された気の緩みから、すっかり遅くなってしまった。


飲み過ぎた、とまではいかないけど。

耳が赤いのは、信号のライトの反射だけが理由じゃない。


手元の時計の針が、ジリジリと明日へ時を進める。


研究関連の文献を読んでいる時は、僕が止めないと眠らないくらいだけど。


こんな日に限って、ヌナの仕事が落ち着いてたりするんだよな。


青信号のスタートダッシュに気後れしながら、なんとかヌナの部屋の前まで辿り着いた。


ダメだな。

ジムでも通おうか。

こんなことくらいで、へばってちゃヌナを守れないよ。


一応、見栄を張って。

息を整えてからドアを開ける。


『ヌナ、ただいま!遅くなってごめんね』


つづく→