Jin side 30-1.


ヌナの闇が。

僕への愛の深さと比例しているのならば。


*******


『それでね、ジンと一緒に住めないかなって』


『え...?』


一緒に...住む...


『ジンといると、ほら夜中にね...起きてないみたいなの。次の日に傷が増えてないから。でも、たまに一人になると...また傷が増えてて』


ヌナ...

それは...


『もちろんっ...自分自身で克服しなきゃって思いの方が強いの。私の問題だから。だけど...だけどね。ジンといるとすごく安心するの。ジンがそばにいてくれたら、私...』


『ごめんっ...』


思わず、出てしまった言葉。


『...ちょっと考えさせてもらってもいいかな』


『あっ...もちろんっ...もちろんだよ!急にこんなこと言ってごめんっ...でもっ...』


分かってる。

ヌナの言いたいことは痛いほど分かってるんだ。


『私たち...ずっとこのままかな?その...タイムリープが終わったらって約束...』


目に見えて傷の減った、細い指が壁を指差す。


僕の書いた、誓約書。

ヌナと一緒にいたくて、ヌナの「未来」を繋ぎ止めた。


一緒になる。

ヌナと幸せになる約束。


『そっ...そうだよ!』


だけど、ごめん。


『ヌナ、そこは僕に花を持たせて欲しかったんだよなぁ』


「えっ...えええっ!!?あっ!違う違うっ!」


ヌナ、ごめん。


『私の...その...まだ夜のこともあるし、急いではないの。さっきの、プロポーズしたわけじゃないからっ...』


小さくなって肩を窄めるヌナを抱きしめた。



『ヌナ、大好きだよ』


この気持ちに偽りは一片もない。


『ジン、大好き』


でもね。

僕、いま逃げたんだ。


壁に佇む、ペンのインクが色褪せた誓約書を見て心臓が鈍く跳ねた。


つづく→