51-1.
幸せな夢を見た気がした。
温かくて柔らかくて体の中から光が溢れるような、そんな幸せな夢。
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「ジンッ!」
飛び起きたその横には、私の、一番愛おしい人が微笑んでいる。
『ヌナ、おはよう。目覚めたて一番で名前を呼ばれるなんて、照れるね?』
「あの、私...」
夜中にジンを追い求めていることに気付いた時から。
目覚めてすぐ、傷が増えていないか指を触るのが癖になった。
あっ...
ない。
新しい傷、ない...!
どの指のどのあたりにどんな大きさの傷があるか覚えてしまっているから。
目で見なくても新たな傷ができていないことは分かる。
頬を流れた涙を、ジンの長い指が拭う。
『ヌナ、抱きしめてもいい?』
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昨日、結局ソウルへは帰れなかった。
服が乾く間もなく降り続く雨に痺れを切らし、大通りへは出てみたが、地下鉄もバスも最終便はとっくに行ってしまっていた。
アプリでタクシーを呼ぼうにも、週末の夜。
簡単に捕まるわけもなく、時間だけが過ぎていった。
「っくしゅんっ」
『ヌナ!ここで雨宿りしてて。僕が通りに出てタクシーを待つから』
『何言ってんの、ジンが風邪引いちゃう。私のこと庇って、もうずぶ濡れじゃない』
小さな商店の心ばかりの軒下。
ジンの広い肩は、シャツが透けるほど濡れてしまっている。
通りに光るヘッドライトがまばらになり、街の雰囲気も寂しくなってきた。
「あ...」
視線の先に留まった文字に、すぐ目を逸らした。
『ん?』
ジンが同じ方向を見た。
『モーテル...』
ジンと一緒に過ごすことが、嫌なわけじゃない。
隣にジンがいても、また眠れないかもしれない。
もし、眠れたとして。
いや、眠ってしまったら。
私は私を抑えられるか、分からないのだ。
『ヌナ』
ジンの優しい声。
『あのモーテル、サービスでネトフリ見放題だって!』
「...え?」
ジンが手元のスマホで、目の前のモーテルのホームページを映している。
『眠りたくないなら、眠らなきゃいい』
「ジン...私は...」
『ずっと起きてよう?ヌナと観たい映画、たくさんあるんだ。明日の朝までに何本観られるかな?』
ジンは鼻歌を歌いながら空室確認をし、そのまま予約してしまった。
「ねぇ、ちょっと待って...」
『早く行こう、これ以上は本気で風邪引いちゃうっ!』
肩を抱かれ、モーテルへと駆け出す。
都市部から距離のある、静かな街。
より強くなる雨音を超えて、大きく響く鼓動が私を惑わせた。
やっぱり不安?
これは...
期待、かも...
つづく→