50-3.
→つづき
『あーなんだ!ヌナ気付いてなかったんだ。鈍い!鈍過ぎる!あー言わなきゃ良かった!これ言ったらさ、気付いちゃったらさ、意識しちゃうんじゃない!?しまったぁぁぁ...』
頭を抱えてしゃがみ込むジンが、可愛く思える。
大人気(おとなげ)ない、だけど真意の怒りを構わず吐き出したことで、気持ちに余裕が生まれたみたい。
「あー、私、そんなに東条先輩から...」
わざとらしい棒読み。
大きな声。
はっとした表情で顔上げたジンを尻目に、目薬の箱を見つめながら話す。
『この目薬、先輩に買ったんだけど、渡してもいいのかな?渡さないほうがいいのかな?勘違いさせちゃうってこと?でもなぁ...先輩も私も、ジンと違ってもう歳が歳だしね、目を労らなきゃいけないんだよ』
『貸して!僕が使う!』
すくっと立ち上がったジンが私の手元の目薬の箱を取り上げ、中身を開けて目に差し始めた。
『ちょっと!それジンには合わないって!エイジングケアも兼ねてるんだから!』
『東条さんには渡さない!』
雨でなのか目薬でなのか、もうわからないくらい、ジンの目元はびしょびしょに濡れている。
意地悪、したんだ。
ちょっとくらい、いいよね?
バッグからハンカチを取り出して、ジンの顔をそっと拭う。
「時間、かかるかも」
『え?』
『前みたく。タイムリープの前と全く同じって、今すぐは難しいと思う。でもできれば、私もあの頃みたいな二人に戻れたらって』
『ヌナ...』
『ジン、まだ濡れてる』
地面が泥濘(ぬかる)んで、うまく背伸びができない私を見て微笑むあなたを。
もう一度、心から愛したい。