49-3.


→つづき




「いい加減にしてっっっ!!!」



さっきのジンの発言のせいか、時間のせいか。

もう周りには誰もいない。



『わっ...私はね、心殺して生きてきたんだよ?あんたが「過去」に、「彼女」にうつつ抜かして、さらに現在(こっち)での記憶失くしつつあるってどういうこと?私の担当した被験者の中で一番ヤバイ症例だったから!もう研究所史上、表に出せない試験になったから!試験に参加してた研究員には所長直々に緘口令敷かれるし、私も病むし事故に遭うし記憶なくしたフリとかして。私、お母さんにまで嘘ついたんだよ!?』


そうだよ。

ジンのこと思い出さない様に、って。

周りの人みんな巻き込んで嘘ついて。


『それがどういうことか、分かる?あんたは自分も「過去」で辛かったです、みたいな話してたけど、は?そんなの比じゃない。私なんか死にかけて、体だけじゃなく心も壊れそうで、でも誰にも助けてって言えなくて、必死に毎日生きて、生きてないように生きて...』


生きてるように死んでいたんだ、ずっと。


『ようやくあんたのいない毎日を受け入れようとした矢先に、なんで現れたの?ねぇ、なんで!?なんで現れたのよ!あんたが何話したって許すしかないでしょ?仲間6人も味方につけて、あの子達いたら怒ったり泣いたりできるわけないじゃん!ずるいじゃん、私はヌナ(お姉さん)なんだから!』


私は、いつも一人だったのかな。


『それで何?今度は東条先輩が好きかって?何それ、バカにしてんの?私のことも先輩のこともバカにしてる!好きになれたら良かったよ、先輩のこと。だってあんたみたく、「過去」に行ったり記憶曖昧になったり、誰か知らない「彼女」助けに行ったりなんかしないから!』


ジンは今、どんな顔、してる?


「そうだよ、私...私、先輩を好きに...」



瞬間。

ジンの長い睫毛がぶつかって、火花が散った。


それとは裏腹に、柔らかな衝撃が唇から全身に行き渡ると、私は、私が泣いていることにようやく気付いた。



『ダメだよ、ヌナ...ダメだ...その先は言わないで、お願い...僕のことはどうとでもしてくれていい。嫌いだって言ってくれてもいい。だけど、僕以外の人をどう思ってるかなんて言わないで...』


そんな子犬みたいな潤んだ瞳で言われたら、誰も逆らえないって思ってるんだ?


『あんたが聞いたんじゃん、東条先輩を好きかって。だから私はっ...』


こんなので許せるとは思えない。

まだまだ、時間はかかるだろう。


それでも。


逆らう度に遮られるなら、相手がそれを諦めるまで逆らってみようか。


遮られるたびに、心に重ねられた鎧を剥がされ、軽くなると信じて。