49-2.
→つづき
もう喉がカラカラなんだろう。
ペットボトルを煽って空だと気付き、焦って周りを見渡すジンに、手元の袋から封を切っていない分を差し出した。
『いいの?』
『喉乾いてるんでしょ、飲んでいいよ』
必死に話してた。
耳を真っ赤にして。
気持ちが昂(たかぶ)ると早口になるクセを抑えて。
またそれも一気に空けてしまい、ジンは決まり悪そうに、ペットボトルを静かに折りたたんだ。
『...ありがとう。それで...ヌナ。ヌナの本当の気持ちを聞かせてほしいんだ。僕のこと、好き?これからも僕と一緒にいてくれる?』
はい、と素直に答えられらたら多分ここまで拗れていない。
ジンがいま、「過去」にあった全てのことを包み隠さず話しました、と言ってもなお、疑心暗鬼は消えることなく沸々と心の底で沸き立とうとしている。
正直、情けない。
私はもう、私を解き放つための鍵が一体なんなのかすら、分からなくなっているのだ。
ジンが何を話してくれても。
どれだけ私を大切にしてくれても。
愛してくれても。
心に幾重にも纏った重過ぎる鎧を外す手順に、見当もつかない。
「っ...」
『ヌナ...僕のこと好きじゃ...ない?』
「っ...」
言葉が出ない。
好きじゃないのか。
好きかどうかが、分からないのか。
何をしてくれたら、好きになるのか。
あのね、これだけは言える。
ジンのせいで。
こんなに心がめちゃくちゃになってるのに、ちゃんと伝えられない。
それが悔しいよ。
小さく息を吐き、ジンがこちらに視線だけを向けたのが分かる。
『やっぱり東条さんのこと、好きなんだ?』
...は?
『ん?なんで、先輩?』
『ヌナ、その手の傷のこと』
そうだ。
ジン、この手のことに気付いていたんだった。
そのことに驚き過ぎて勢い余ってさっきはジンの頬を...
『東条さんは知ってるんだよね?僕、ヌナのこと相談したくて東条さんと話してて、たまたまヌナのその手の傷の話になって』
え?
ん?
私のことを先輩に相談?
なんで?
っていうか先輩も、この傷のこと...
『東条さんに教えてもらった。夜間せん妄って言うんだね。ヌナが精神的にストレスを負ってるのは分かったし、それが僕のせいだってことも、恥ずかしながら東条さんに指摘されて気付いたっていうか...』
え。
待って待って。
私のいないところで二人で何を話してんの?
傷を隠し切れてなかった。
でもだからって、この傷だけで夜間せん妄ってとこまで行き着く?
だめだ、分かんない。
心の黒の芯に火がつき、赤い光が漏れ出る。
『あのね、ヌナ。僕が出来ることは言ってほしい、なんでもする!出来ないことでも絶対にするから!僕のせいでヌナが苦しんでるのは分かってる、そんな僕がヌナのために何が出来るか考えても正しい答えが出ないんだ。だから、だから...』
プチッ
見事に擬音化した、この感情。
ジンの、今の言葉に、内容に対してじゃない。
いつからか積み重ねられた我慢が、一息で崩れ去る。
あ、もう私、ダメかも。
つづく→