東条Side 22-1.


心底腹が立つ。


*******


『それで...君はなんかあると俺を呼ぶね?なんでそんなに頼られてんのかな?』


『東条さん、ご無沙汰しております...』


彼の方が背が高いのに、こんなに縮こまってる。


今日も今日とて...

一体、何を言い出すんだろうか。


『あっ...あの時は本当すみませんでした。ヌナ、本当は東条さんと約束を』


ん...

今更だけどな...


『うん、そうだね。休日に上司に呼び出された部下を、君はさらって行ったんだ』


...

ちょっと、変な言い方になった。

でも、その通りなんだ。

年甲斐もなくウキウキとカフェへ向かったのに。

白馬の王子様に姫を、滞りなく引き渡した執事のような気分だったから。


『...うまくやれてるはずだろ?瑞上とは』


答えにはおおよそ、予想がついているにも関わらず敢えて聞く真似をした。


『ヌナとは...うまくいっていないと、思います...』


彼側も、そう認識しているんだな。


『ヌナの気持ちを聞くのが怖いんです。一旦離れて、また一緒になって。それがヌナとの合意の上だったかと言われると、きちんと確認していないというか』


『なんで?』


あんな風に、俺から瑞上を連れ去ったのに。

俺は。

自分で出来なかったことを。

瑞上を幸せにすることを、君に託したのに。


『なんで?あいつとは想い合ってるんでしょう?』


二人は想い合ってる。

そうに違いないと思い込みたい弱い心に、煙が立ち上る。


『...仲間に言われるんです。ヌナの気持ちを第一に、焦るな、ゆっくり、って。だけど僕は一日でも早く取り戻したい。あの頃のヌナと僕に戻りたいんです』


火のないところに煙は立たない。

早く。

この火を消さなければ。


『まぁ...俺には関係ないから。瑞上の担当する研究に支障が出ない範囲で、君たちがプライベートを過ごすなら...』


物理的に効果はないが、手元のコーヒーを火消しに大きく含み込む。


『東条さんは...ご存知でしょうか。ヌナの指に、手に傷があって。治りが悪いんです』


カチャン...


なに...?

こいつ、何も知らないのか?

何も知らされてないのか?


なんで...

それを俺に聞く?


つづく→