Jin side27-1.
突き付けられる、『過去』の代償。
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『それで...君はなんかあると俺を呼ぶね?なんでそんなに頼られてんのかな?』
『東条さん、ご無沙汰しております...』
カフェでヌナを偶然見かけて声をかけて。
目の前に東条さんがいたのに何も言わずにヌナを連れて行ってしまった。
どこかのタイミングで話をしなきゃ、と思っていたのに。
既に季節はひとつ巡っている最中だ。
平日の昼下がり。
東条さんは研究所を抜け出して、待ち合わせ場所へ来てくれた。
『あっ...あの時は本当すみませんでした。ヌナ、本当は東条さんと約束を』
『うん、そうだね。休日に上司に呼び出された部下を、君はさらって行ったんだ』
さらって行った...
その言葉に全て凝縮されている。
東条さんは、やっぱりヌナのこと...
コーヒー飲む東条さんの口元は、意外にも穏やかだ。
『...うまくやれてるはずだろ?瑞上とは』
アイスコーヒーのグラスを落としそうになる。
表面の結露のせいだけじゃない。
僕の手のひらも汗で濡れている。
『ヌナとは...うまくいっていないと、思います...』
コースターに置いたグラスが流す汗を目で追う。
『ヌナの気持ちを聞くのが怖いんです。一旦離れて、また一緒になって。それがヌナとの合意の上だったかと言われると、きちんと確認していないというか』
『なんで?』
声に反応して顔を上げると、東条さんは寂しそうな表情を抱えていた。
『なんで?あいつとは想い合ってるんでしょう?』
想い合ってる。
そうだ、と思っていた。
でも、実は違ったのではないかと。
ヌナに近付く度に考えさせられる。
『...仲間に言われるんです。ヌナの気持ちを第一に、焦るな、ゆっくり、って。だけど僕は一日でも早く取り戻したい。あの頃のヌナと僕に戻りたいんです』
『まぁ...俺には関係ないから。瑞上の担当する研究に支障が出ない範囲で、君たちがプライベートを過ごすなら...』
なんだ。
東条さんの話し方。
核心を避けているような、当たり障りないような...
『東条さんは...ご存知でしょうか。ヌナの指に、手に傷があって。治りが悪いんです』
ずっと不思議に思っていたことが口をついて出てしまった。
今日、東条さんに聞こうとは思っていなかったが、話の流れ的に順番は正しかっただろうか。
カチャン...
東条さんがカップをソーサーに置く音が、やけに大きく感じた。
つづく→