Jin side27-2.


Jin side27-2.


→つづき


『あの...あの事故の時の傷なんですか?でも、結構日が経ってるみたいだし、どうしてあんなに細かな傷がたくさんあるのかなって。ヌナ隠してるし...だから僕もそのことには触れないんですけど』


俯いた瞬間、僕の襟元を掴む手が見えた。


東条さんっ...


「お前のせいだよ」


行動の大きさに反して、東条さんの声は小さく、だけど低く冷たく僕の耳に刺さった。


『全部、全部お前のせいだって。まだ気付かないのかよ?本当、心底腹立つよ』


東条さんの唇が震えている。

怒りだ。

あの時の、僕が覚醒した時の怒りと同じ。

僕に対する怒りで、震えているんだ。


『僕のせい...』


覚醒した時も、こんな話をした。

僕のせいで、ヌナが『彼女』の運命を背負ったって。

命こそ落とさず済んだけど、大きな事故に遭ったって。


じゃ、あの傷はやっぱり事故が関係してるのか...?


「あいつはまだ...」


『東条さん...』


掴まれた首元の力が少し緩む。


『過去を...君を失ったと感じたあの日をずっと繰り返してるのかもしれない。今も毎夜、眠るたびに』


...?


『事故は関係ないってことですか?』


分からない。

なんだ?

僕を失った日を繰り返してるって...


『あいつ...自分の部屋のドアをずっとノックし続けてるみたいなんだ。下手したら一晩中』


ノックし続ける?

なんのために?


『あっ...あのヌナはっ...今はどういう状況なんですか?夜中にノックし続けるって...』


ヌナ、どうしちゃったんだ?


『君に声をかけてるんだろな。ドアの向こうから出てこない君を待ってる。君が過去へタイムリープしている時に、『彼女』という存在に囚われておかしくなったろ?毎日、君の部屋まで食事を届けていたこと、忘れたのか?』


...?

ヌナが僕の部屋に毎日?

一体いつの話だ?

確かに「現在」で「彼女」を見つけられずに、部屋に閉じ籠っていた気はするけど...


僕が「彼女」を助けるために意識転送する前...?


ダメだ。

あの頃の記憶は曖昧だし、無いに等しいくらい薄れている。

僕がそんな状態の時に、ヌナはずっと支えてくれてたのか?



『ドアの...向こう側にヌナが...?』



東条さんは完全に僕から手を離し、ソファの背もたれにゆっくりもたれかかった。


「どうしようもねぇな、全く

...」


聞こえなかった小さな呟きは、僕に対するものだろう。


『ドアを叩き続けて怪我してるんだ。眠っている間のことだから本人も意識がないし、痛みを感じにくいから、それで目が覚めることもない。夜間せん妄ってやつ。ちょっと調べたら、いくつも症例が出てくる』


せん妄?

精神的に不安定ってことなのか。

ヌナが、僕のことでそんな...

怪我するまで、僕を...


頭が追い付かない。


つづく→