45-1.
臆病が、私を支配する。
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『ヌナ、今度の週末出かけようよ』
『え、なに唐突に』
日曜日の図書館。
かなり声を潜めて話をしている。
『早く行かないとランタン祭り終わっちゃうよ?』
手元の資料から少し視線を移すと
厚い唇を尖らせて、子どもみたいに拗ねるジンがいる。
『行きたいけどね、研究立て込んでてちょっと無理かな』
調べたいことがあって図書館に行く、と言ったらジンもついてきた。
ジンと一緒にいたい気持ちは嘘じゃない。
でもそれをコントロールできそうになくて。
恋人、というポジションに素直に戻れないでいる。
ジンの気持ちを蔑(ないがし)ろにしてまで、私は何を守ろうとしているんだろう。
『ヌナァァァ』
「ちょっ...」
右手のボールペンを華麗に取り上げられ、見上げるとジンがため息をついた。
『やっと目が合った』
ノートの上にボールペンをそっと置くと、ジンは背を向けて歩き出してしまった。
...あ、しまった。
怒らせた...?
適当にデスクの上を片付けて、ジンのあとを追う。
『ジン!待って...』
図書館のエントランスを抜けた、目の前の公園。
移動販売車の列に並ぶジンが振り返って、口元に長い指を当てた。
『ひとやすみ、ね?』
じんわり、頬が熱くなる。
こういう感じ。
いつぶりだろうか。
つづく→