44-2.


→つづき



『動物園なんて、いつぶりだろう?』


『意外だな、ヌナ動物好きでしょ?』


ソウル動物園に来たのは初めてだ。

大学院を修了して、韓国に来て10年余り。


『日本でもこっちでも、研究室にこもりっきりだからね。まぁ私は好きで、やってるんだけど』


余暇を楽しめない人間だと思われたくなくて、言い訳っぽくなる。

悪い癖だ。


ジンの優しい微笑みに、自分がちっぽけに思える。


まるで出会ったあの頃みたいに。

私は意味もなく卑屈になっている。


ジンはきっと。

何もかも分かってくれているのに。


今の私は。

ジンと出会って、ジンがタイムリープするまでの、あの二年さえも壊してしまいそうで。


素直になれない。


気にしないと決めても。

ジンの過去が気になって仕方ない。


そんな自分をすぐにでも捨て去りたいのに。

足枷の如く、ついて回る。


『ヌナ?』


『あっ...ごめっ...』


何考えてるんだろ、私。

今度こそ、ジンと向き合うって決めたのに。


『ヌナ。どの動物が一番好き?』


『え、好き...一番...』


目の前にいるあなたが、その答えだと言えたら。



『サル?ウキキー!』


!?


『それともライオンかな。ガオー!』


鳴き声だけじゃなく手振り身振りで動物になりきるジンが、かわいくて。


『ウマか!ヒヒーン!こりゃホソクだ』


『ふっ...あははっ...ホソク君に怒られるよ』


『ヌナ、笑った』


...?

笑ってなかった?

私。


『ヌナ。これからはヌナがずっと笑っていられるように、もう悲しい思いをさせないように、僕がヌナを守りたい』


『ジン...』


お願い。

そばにいて、ジン。


口に出すのが、怖い願い事。


『あ、アルパカのおやつタイムがあるよ。ヌナ行こう!』


『まっ...待って...』


『ヌナ、どうした?疲れちゃった?』


怖いけど。

私から歩み寄らなきゃ。


『手...繋いだり...する?』


傷の目立ちにくい左手を遠慮がちに上げる。


その笑顔。

その瞳。


私の心に映るままに、ジンを信じたい。