東条side 21.


あの日の待ち合わせが。

10分違ったら。

ひとつ隣のカフェだったら。


そもそも。

俺が瑞上を呼び出さなければ。


*******


「なんで今日なんだ...」


カフェのイベントのせいか、店の外も中もいつも以上に人でごった返していた。


店の前を通るたびに、店内のキラキラした装飾が手伝うばかりでなく、幸せそうな人々の笑顔が溢れて、とても眩しく見えた。


自分には似合わなくても、瑞上と二人なら...


思い切って誘ってみたはいいものの。


「やっぱり場違いだったかもな」


二箇所ある出入り口の一つから、瑞上が見えた。


どんな場所でも。

すぐ、見つけられるんだ。

想いは、相手を強く光らせる。


ドアを開け、瑞上に近寄ろうとした時。


自分の目を疑った。




...彼だ。


どうして、ここに?


まさか、連絡取り合って待ち合わせなんて...



いや、あり得ないよな。

瑞上が、わざわざ俺とバッティングさせるなんて。

そんな性の悪い計算、できるやつじゃない。


じゃ、本当に...


「偶然...なのか...」


店内の騒々しさから何を言っているかは分からないが、瑞上の背中側から彼が声をかけている。


それを瑞上の正面側から見ている。


奇妙な構図だ。



俺は...どうしたらいい?


俯瞰にいる俺が答えを出す。


このまま、瑞上の手を引いて店の外へ出ればいいだろ?


彼が覚醒したことすら知らない瑞上が、いきなり彼を見てどうなるか。

こんなところで取り乱したりなんかしたら大変だ。


瑞上が振り向いて、彼を見る前に。

俺の、この手で。



そうだ。

俺が、その手を。



「瑞上」


俺の声に、見上げた顔は。


「せっ...先輩、お疲れ様ですっ...こっ...この店は出ましょう、お昼食べに行きましょう」


...どうしたって、俺のものじゃない。


「先輩っ...」


俺のものに、なるわけないんだ。


「俺じゃなくて?」


瑞上の肩をそっと押し、彼の方へ向かせる。




なんでだよ。


なんで。


こんなに好きなのに。

こんなにも好きなのに。


お前の心には。

一糸ほども、俺が入り込む余地はないんだ。


それを。

まざまざと見せつけられて。


俺には。

もう、どうすることもできねぇよ。