※前回掲載分と冒頭部分はリフレインしています。
41-2.
鞄から本を取り出して、続きのページをめくりながら、腕時計に視線を落とす。
「先輩来るまで、ちょっとだけ」
『ヌナ...』
...え?
あまりに思いがけず、肩が跳ねる。
...あぁ。
今、私をこう呼ぶ人はいないのに。
『ヌナ...ヌナだよね?』
賑やかしい、騒々しい店内。
それなのに、まるで放たれた矢のように、その声は真っ直ぐに、私の耳に届いた。
違う。
違う、私じゃない。
『ヌナ、僕...』
優しい声。
温もりが伝わってきて、涙が出そうになる。
「瑞上」
ふと顔を上げると、先輩がいた。
「せっ...先輩、お疲れ様ですっ...こっ...この店は出ましょう、お昼食べに行きましょう」
ガタガタと忙しなく席を立とうとする私の肩に、先輩がそっと手を置く。
その目は、私に何を伝えようとしているの?
「先輩っ...」
もう、ずっと。
ずっと前から。
逃げ出したい時に限って。
連れ去ってほしい時に限って。
先輩は、私の手を取らないんだ。
先輩が静かに、穏やかに呟く。
「俺じゃなくて?」
そっと肩を押され、体の向きを変えたその先には。
ジンがいた。