39-2.
→つづき
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バタンッッ
『エリアBですかね、騒がしいな...』
カンさんと試験準備をしていると研究エリアにまでドアの閉まる音が響いてきた。
『最近エリアBって何してるんですかね。東条管理士は出入りしてるみたいですけど』
カンさんはヒソヒソと好奇心を呟く。
『まずは自分の試験に集中。ほら、この前の被験者家族の忘れ物、ちゃんと送ったの?』
手元のモバイルパッドから一瞬だけ目線をやると、彼女は慌てて自分のデスクへ走った。
一人前にはまだまだ程遠い。
それでも、彼女の若さやパワーに間接的に助けられている。
私ももっと、研究に専念しなきゃ。
研究にのめり込むほど、自分の弱さもジンのことも忘れられる。
通常試験に加えて、先月からは特異プロジェクトに参加している。
記憶の忘却と正常値での覚醒。
「そんなに忘れたいかね...」
試験準備を済ませて、ふと、話題に上がったエリアBに目をやると、東条先輩が一人で立っているのが視界に入った。
そういや...
退院してから、あんまり話してないな。
仕事としての関係性は良好だ。
先輩も私も、研究の虫だから週末も研究所に入り浸って、気付けばディベートだ。
でも、私のプライベートに一切介入してこなくなった。
前からそうだけど...
研究所の敷地から一歩外へ出るだけで人が変わったみたいに冷たくなる。
梅雨の終わりに事故に遭って、そろそろ三つ目の季節を迎える。
「あの店に、快気祝いに連れて行ってくれるんじゃなかったっけ」
...いや。
いいや。
先輩の前で、ボロが出たら困る。
嘘をつき続けることがどんなに大変か。
想像もしてなかった。
東条先輩に、自己を守るための偽りの鎧を既に剥がされているんじゃないか、と怯えながら過ごす日々はなかなかに辛い。