その日は雨が冷たく寒かった。
早めに出てどこかで昼を摂ろうと思っていたが、その日瓦礫焼却に反対する北九州のことが気になって、ネットに釘付けになり、永田町の星陵会館に着いたのはぎりぎりだった。
3階の《障害者切り捨てネットワーク》に行くと、薄ぼんやりした障害者たちが仲間内でくつろぎ、なんでもないことに冗談口を叩きあっては手もなくはしゃいでいた。
何だかいたたまれなくなって階下に降りていくと、喫煙コーナーがあった。檻のような喫煙コーナーで知らないひとと一服をくゆらせるのは嫌いだった。幸い誰もいなかった。ホッと人心地ついていると、胸が高鳴った。
あれは、原発が惨禍に見舞われるかなり前の、風雲急を告げるときだった。テントと寝袋をくくりつけ、薄汚れた乞食スタイルで野良犬みたいにあちこちしている頃だった。
はじめて大阪高裁の通路にあぐらをかいて、始めて彼女に会ったときのことがよみがえってきた。
誤解を恐れずにいおう。
彼女は幻のように美しかった。
曲がった腕にバッグをぶら下げ、細い脚を互い違いにして、よちよちやって来た。
裁判など糞喰らえ。
人生も金も何もかも踏み潰され、ろくなことなどありゃしない。あんまり首を突っ込むとえらい目にあう。泣き寝入りが一番いい、と誰だってわかっている。
JRの体質だって?
「女はこわい。障害者はこわい。くわばらくわばら!」だって?
何さ!
もう、あきらめよう!
綺麗さっぱり、あきらめよう!!
何もかもどうなってもいいから、忘れてしまおう!
とめどなくあふれる涙でびしょ濡れの枕の冷たさで夜半目をさますと、彼女の小さな胸は張り裂けそうだった。
あきらめら切れない!
毒を吐き散らして、やっぱり、たたかおう!
この、ご立派な淑女があばずれでないと、誰が言えよう。だからこそ、闘ったのだ。ちびっ子の頃から。
そうして彼女は、黒を白といいふくめる糞みたいな裁判からおっ始めて、駅頭で、路上で、行く先々で嘘八百を暴き立てて、訴えつづけた!
49歳の今も!