とても不思議だ。
あの頃、緊密でこの上なく強固に見えた東電本社ビルに対峙したとき、あまりな無力感に、どうかなりそうだった。
やがて、知れば知るほど、マフィアと言われるその複雑怪奇なシステムは、政治はもとより、法律、義援金、病院、ボランティア、労組、こどもまで――いや、食べるもの、飲むもの、吸うものばかりか、下の下の下の方で生きる僕たちの一挙手一投足まで支配していた。
そして、この十数年のあいだに、とうとう来るところまで来た。
電気代は安くなるし、なんといっても素晴らしい原発を再稼働し、仕事を奪われたひとたちを自衛隊に雇い入れ、かつてアメリカに蹴散らされた沖縄で、中国と戦い、こんどはアメリカの助っ人を得て第3次世界大戦の勝ち組になるという嘘っぱちを、国営NHKテレビと電通と新聞どもは、ウハウハと、こぞって、吹聴しはじめた。
嘘八百のやり放題、だまし放題、やりたい放題!!
あれ以来、とぎれずに続いていた無数のひとたちの、下手くそだがまっとうな声はどこへ消えたのか。
弱々しく聞こえたが、その実、何事にも負けない怒りは?互いに知らないひとたちの、そこはかとない共感といたわりは?
何度、無力感に打ちのめされそうになったことだろう。
だが、僕たちは打ちのめされなかった。
僕たちはひとつだ。
僕たちの父母、祖父母はかつて目をおおう瓦礫の廃墟から立ち上がった。
子の世代の僕たちは、今や、かつてないおそろしい困難に直面している。
近づけば即死する核の残骸を処理し、何としても、どんなことがあっても、永久保存しなくてはならない。
逃げることはできぬ。
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戟叉(げきさ)の一撃
火の雫
いいとも、けっこうさ
もう一度
探しだそう
永遠を
それはきらめく太陽と海
待ちわびた魂よ
ともにつぶやこう
空しい夜と
烈火の昼の
せつない思いを!
(アルチュール・ランボー)
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そのようなとき、敵も味方も、お金ザクザクもどん底も、利害も糞もあるものか。