目を覚ましたときは激しい雨音が響いていた。二度目に目を覚ましたときには雨音はほとんど聞こえなくなっていたが、不安定な天気には変わりなかった。おそらく油断して外に出たときを狙って再び降りだすのだろう。


今日は一歩も外に出ることもなく、だらだらと"ながら"生活を決め込んだ。お供には堂場瞬一氏の『棘の街』を選んだ。2004年に発表され、2009年10月の幻冬舎文庫化を経て、2023年9月に角川文庫から刊行されたのが本書だ。




県警捜査一課の刑事・上條元は地方都市・北嶺で発生した誘拐事件の身代金受け渡しで失敗し、犯人との連絡が途絶えて、上條は3日後に捜査から外された。そして2ヶ月前、被害者の高校2年の上杉光良が遺体で発見された。


進まない捜査に上條は無理やり北嶺署に異動した。組織を無視して単独で捜査を続ける上條。結婚したが、息子が生まれた直後に妻はなくなり、息子はすぐに妻の父親に引き取られ、上條の中で息子の存在は消えていた。


上條は、母が亡くなり、世界を飛び回っていた実の父ともほとんど会話もなく、その父も他界した。上條は生活の全てを刑事として費やしていた。そんな上條には他の刑事の動きは生ぬるく映っていた。


光良の両親は離婚していて、母親の朋絵と二人暮らしだった。朋絵と過去に関係があった上條だったが、朋絵は警察を信用せず辛辣な言葉を上條に浴びせた。


ある日、父が経営していたレストラン近くで、仲間に暴行される少年が救出され、そこで保護されることになった。少年は記憶を失っていたが…。


光良の行動を追った上條はある手がかりをつかんだ。そこから衝撃の事件の真実が見えてきた。そして結末は…。

決してハッピーエンドでは終わらない警察小説だった。



舞台になっている北嶺という地方都市はどこだろうと気になった。そのヒントが「岩割桜」だった。


「北嶺」の名前は、現在の県北部一帯を版図としていた戦国大名に由来する。「北嶺城」は、今も市の中心部の高台にほぼ完全なままの姿を残しており、その一帯は公園として整備されていた。春には桜が満開になり…。


これは盛岡がモデルになっているのではないか。有名な「岩割桜」というと盛岡城跡公園を思い浮かべる。どうだろう。