少しでも動くと汗ばんでくる。動きを最少に抑えて昼時間を乗り切った。予報どおり暑さだった。何もやる気が起きない中、せめて本くらい読もうと、堂場瞬一氏の『罪の年輪』を手に取った。


本作品は2024年3月に文春文庫から書下ろし作品として刊行された。シリーズ7作目。「ラストライン6」となっているが、前作が「0」だったためだ。




西武拝島線武蔵砂川駅付近の玉川上水で殺害された男性の遺体が見つかった。被害者は小村春吉(87)、元小学校教諭で退職後、自宅で無償で子どもたちに勉強を教える小村塾を開いていた。2年前に妻を失くすと塾を閉め、今は施設に入っていた。


立川中央署に勤務する岩倉剛刑事(55)たちが情報収集に走り回っている中、犯人が自首してきた。これも立川に住む三嶋輝政(87)だった。被害者とは昔からの知り合いだという。具体的な犯行状況は詳細に語るが、動機に関しては黙秘を貫いた。


驚異的な記憶力の岩倉が、三嶋が最後に漏らした「60年以上前からの知り合いだと言っても…」を手がかりに思い出した60年前の出来事に砂川闘争があった。米軍立川基地拡張に反対する住民運動だった。


小村と三嶋も学生時代にこの闘争に参加していて、三嶋は一度逮捕されていた。ただ、不起訴で釈放されたか、大学を辞め、散々な人生を歩いてきていた。一方、小村は大学を卒業して念願の小学校教諭になっていた。


そんな違いがあるにしても、なぜ今の犯行なのか?2人の過去を追った岩倉がたどりついた驚愕の事実とは?



本書の構成は以下のとおり。(目次引用)

第一章 最後の日々へ

第二章 迷走

第三章 停滞

第四章 抜けたパーツ

第五章 事件の終わり



本シリーズは、50歳になった岩倉刑事が定年までの10年をカウントダウンする形で進められてきた。ところがここにきて警察の定年が65歳に引き上げられた。シリーズは当然延びるのだろうか。


ちなみに岩倉は、その異常な記憶力を研究しようとするサイバー犯罪対策課の福沢から逃れるために捜査一課を出て所轄を転々としてきた。その福沢は事件に巻き込まれて亡くなり、大学教授の妻との離婚も成立していた。捜査一課長から捜査一課に戻るよう打診された岩倉は申し出を受けることにした。


立川を舞台にした作品は馴染んだ場所で地理感があるためイメージしやすかったが、次作からは捜査一課の岩倉剛になる。どこが舞台になるだろうか。