年寄りは早く消えろ!とばかりに楠が若葉に生え代わり、古い葉が間断なく落ちてくる。それを強くなった風が煽る。今日も徒労を実感する作業をしてしまった。


仕事は早めに切り上げ、空き時間を一冊の本に費やすことになった。堂場瞬一氏の『バビロンの秘文字』の第一巻「胎動篇」だ。読み出したら止まらなくなってしまった。




中央公論新社創業130周年を記念して書き下ろされた作品で、2016年1月から3ヶ月連続刊行された。全3巻。なお、3年後に文庫化された際には上下巻2冊に編集されている。



カメラマンの鷹見正輝は恋人・松村里香に会うためにストックホルム郊外のアーランダ空港に降り立った。里香は古代言語学者で、シュメル語を専門にし、東京にある「総合言語研究所」からストックホルムの「国際言語研究所(ILL)」に派遣されていた。


翌朝、正輝は先に出た里香が働くlLLに表敬訪問に向かった。そして正輝の目の前でILLで爆発が起きた。里香の身を案じる正輝は、呼びかけにも応じず、一目散に自転車で遠ざかる里香の姿を視界に捉えた。


ILL所長のスティーグ・ラーションからILLが脅迫を受けていたことを知った。アメリカから届けられた楔形文字が描かれたタブレットと呼ばれる粘土板を渡せというものだった。その粘土板を里香が持って逃げたと考えられた。


爆発で負傷したのはアイラ・リンという女性で、ラガーン人だった。ラガーンはシュメル人の末裔を自認する種族で、粘土板を追っているのもラガーンだった。そして粘土板をILLに届けたアメリカに住むアマチュア考古学者のアレクセイ・アンゾフは拷問を受けたあと、殺害されていた。


里香からの連絡で隠してあったタブレットを手に入れた正輝をラガーンのエージェントが襲った。タブレットの秘密は何か?里香はなぜ逃げ回るのか?里香を追って、正輝、ラガーン、そして警察の追走が始まった。



作品の雰囲気から『ダ・ヴィンチ・コード』を連想する人がいるかもしれない。堂場作品にこういう作品もあったことは驚きだった。内田康夫氏の『明日香の皇子』に出会ったときの感覚に似ている。そうだ、『ラスト・コード』の数学の天才少女・一柳美咲と警視庁捜査一課の刑事・筒井明良もどこかで登場するんだった。続きを読むのがますます楽しみになってきた。