小説『風林火山』井上靖

新潮文庫。平成18年の82刷。当時の売価・本体514円。初版は昭和33年。

もともとは『小説新潮』連載。単行本(新潮社)は昭和30年刊行。

古書店で200円で買った。

 

有名な作品だが、バカで歴史知識に疎い私には難しい小説だろうと怖気づいて読んでなかった。実際に読むと、夢中で楽しめた。

 

あらすじ

山本勘助は智力・策力、武術ともに優れた五十代の武士。甲府の武田家を率いる若き武将・武田信玄24歳の家来となる。信玄の武将としての器に惚れ込んだ勘助は忠勤、手柄を挙げ出世していく。

ある時、勘助は信玄の命を受け諏訪城を攻め落とした。その時、諏訪城主を殺害したが、そこで出会った諏訪城主の娘・由布姫15歳の聡明さを見抜く。信玄に義信らロクでもない後継ぎ息子しか居ないことから、勘助は由布姫を信玄の側室とし男児勝頼が産まれた。優秀に違いない勝頼を武田家の後継者にするのが武田家の将来のため、というのが勘助の構想だった。

由布姫は信玄の側室にはなったが、父のカタキ信玄をいつか殺すという野望を内心抱き続けている。勘助は由布姫に信玄を殺させないため、また由布姫と勝頼の安全のため2人を自城のある諏訪に住ませる。

信玄が甲府に新たな側室・油井を持とうとしていると気づいた勘助は、由布姫と勝頼の立場を守るため油井を密かに斬ろうと決める。由布姫と勝頼への想いは勘助の中で譲れぬものとなっていた。

勘助は油井のいる甲府の屋敷に忍込み油井に会うが、油井の人柄を認め斬らず。その後由布姫に呼び出された勘助は由布姫の巧妙な話術にはめられ、油井のことを白状させられてしまう。勘助は信玄に女漁りをやめさせるべく会うが、逆に油井の産んだ二人の姫と長男の世話も命じられ諏訪に引き取った。勘助は信玄と共に出家し、信玄の女漁りをやめさせた。

信玄の本妻の子・義信らが政略結婚の材料に使われた。武将同士の仲がこじれればその子らの命も危うくなる。それは由布姫の発案。由布姫は勘助に勝頼を頼むと言う。

越後の上杉との小合戦が起き、その最中、由布姫が病死した。由布姫に深い想いを抱いていた勘助は由布姫を失い、今後は勝頼の成長を生き甲斐に合戦に明け暮れる生涯を送ると誓う。

ついに上杉との決戦が来る。ある深い朝霧の日、勘助は主力部隊に上杉軍の本拠地を襲わせるが、これがとんでもない作戦ミスであった。上杉軍もちょうどその日、勝負をかけて既に武田陣地目指し出陣した後。上杉陣はもぬけの殻であった。勘助、信玄ら武田留守部隊は上杉軍の猛攻を受け苦戦、危機に立つ。勘助は信玄嫡子の義信に代わり決死隊を買って出て上杉軍本陣に切り込んでいく。やっとその時、武田主力部隊が援軍として引き返して来るのが見えた。逆転勝利を確信した瞬間、勘助は敵武士に斬られ死ぬ。

 

感想

勘助は合戦には強いが女子供にはめっぽう弱い愛すべき老武者。特に由布姫には手玉に取られてしまうのが面白い。

上杉軍を前半から「最大のライバル」として別格に扱い、終盤への盛り上げ材料にしてるのも上手い。

井上氏得意の「秘めた想い」モノの一種といえる作品。

最後、あれだけ低評価していた嫡子義信に代わり自己犠牲で決死隊になるところが勘助の変化・成長を象徴している。

本気で映画化したらとてつもない製作費がかかる。