『破れ星、流れた』『破れ星、燃えた』 倉本聰・著

幻冬舎。単行本。2023年刊行。税込み各1980円。

全2巻の倉本氏の自伝。父に借りた。父は倉本氏とほぼ同年齢なので、それで興味を持ったんだと思う。でも父は倉本氏のドラマをほとんど見てないので、この本を愉しめるかは疑問。

 

■戦争中の雰囲気とは? 学童疎開の雰囲気とは? 経験者が綴るリアルな描写。初めて知る内容だった。

■『北の国から』で出てきたシーンやセリフの元ネタが多数出てくる。「これはあそこの元ネタだよね」と推理するのもファンには面白い。

■倉本氏は裕次郎から「俺の最後の映画を書いてくれ」と注文されたが、その注文に応えられなかったのが最大の痛恨という。さすが倉本氏ともなると痛恨のスケールが違う。倉本氏は奥さんと一緒に裕次郎のいるハワイまでその件を謝罪に行ったという。それが裕次郎と会った最後とか。石原プロからは「絶対当たる映画を!」ときつく注文されたそうだが、晩年の裕次郎主演で「当たる映画」と言われても難易度が高すぎる。さすが倉本氏ともなると寄せられる注文も難し過ぎる。

■いろいろなところに出入りして、いろいろインプットしている。だからアウトプットできる。

■「最後は倉本作品でやりたい」と頼んでくる俳優の顔ぶれがすごい。今のドラマの状況はよく知らないが、俳優が「最後はあの人の脚本で」と思うような脚本家さんって今もいるのだろうか? 脚本家には商人タイプと作家タイプがいて、倉本氏は典型的な「作家型」。

■倉本氏の本は好きでよく読むので知ってる話も多かった。高倉健さんの素顔も書かれていて健さんファンにも嬉しい本。『北の国から』『駅STATION』『冬の華』『6羽のかもめ』が倉本作品では好きで、それらのメイキングが語られているのも嬉しい。実相寺と組んだ『波の盆』のことも書いてある。ちゃんと実相寺の名前も出して書いてくれている。当時ドラマから離れていた実相寺の起用は倉本氏のご指名だったんだよね。倉本氏は実相寺の内に秘めた情熱も才能をちゃんと理解していたのだ。「実相寺みたいのがテレビドラマやらなきゃダメだ」という思いがあったんだと思う。倉本氏は実相寺の『怪奇大作戦』とか見てるのかな。ここは気になる。『ブルークリスマス』も好きだが、これについては言及なし。大コケだったらしいからな。別に竹下景子ファンではないが、あの作品の竹下景子だけはヤバい可愛いと思う。この本には書いてないが『冬の華』は構想段階では池上季実子ではなく山口百恵だったんだよね。これが実現してたらなあ。百恵版『冬の華』、これは死ぬほど見てみたかった。

■倉本氏の北海道移住のキッカケとなったNHKとの大喧嘩についても詳細書いてあり(無論倉本側の言い分だけだが)、倉本入門書としては好適。(願わくば上原氏や吉川氏にもこういう自伝を書き残してもらいたかった。)

■結局私は、熱い生き方をした人に興味があるのだ。自分には出来ない、熱い生き方をした人に。しかし熱すぎて周囲との温度差や摩擦が大きいのもよくわかる。倉本氏とか黒澤明氏とか、熱すぎる人は本来個人芸術をやるべき。でも映画やドラマは個人では出来ない。そこにそもそもの問題がある。