『手紙』東野圭吾

 

文春文庫。2007年の14刷(本体590円)。初版は2006年刊行。

もともとは毎日新聞に2001~2002年連載。単行本2003年刊行。

ブックオフで100円で買った。

 

主人公は男子高校生。親は無く兄と二人暮らしだったがある日、兄が強盗殺人という大罪を犯してしまい、生活が一変する……

 

加害者家族の運命はどうなるのか?野次馬的興味で読み始める。非常に読みやすくスラスラ読める。流れるように話が進み、読むのに集中力を要しない。これは並大抵の技ではない。読者みんなが感じることに作者がすぐ回答してくるから読み易いのか? 突飛な展開は無く、まあこういうことはあるだろうなという出来事が続く。物語は自然なままに展開していく、この技はすごい。

主人公がバンドに入るあたりから予想外の話になる。バンドの話は駄目になると予感させる、よくある展開、作者の意図が見える展開エピソード。

終盤ついに出てくる。心ある理解者が。その人が語る、殺人してはいけない理由。終盤は、加害者側の謝罪は「自己満足」か? 「正々堂々」は「自己満足」か?と、「自己満足」が重要なテーマとなる。そこだけに絞りすぎている感じさえある。薄汚くは描かない、アクの強さはない小説。排除してる。泥臭さとかも。ぎとぎとした部分は描かない。コンビニふうなスマート商品に徹している。そこがイマ風で人気の秘密か。

夢がダメになり、就職がダメになり、恋愛がダメになるが、それらの出来事を並行しては描かない。それぞれを順番に描いていく。これも読みやすくするため。読みやすさ第一に徹底している。

嫌な奴は出てこない。ごく普通の人々が普通に生きていても生じてしまう哀しみを淡々と静かに描いている。山田洋次の映画も善人しか出てこないがそれでも生じてしまう人生の難しさを描くがそれを思わせる。

貧乏なので、百円で買えた時に限るが、今後もこの作家の小説は読もうと思う。