脚本「海賊船」小國英雄

 

『男の花道 小國英雄シナリオ集』所収。

1951年公開作品。これは大傑作シナリオだった。これだけ面白いシナリオを読んでしまうと、他の作家のシナリオはつまらなくて読めなくなってしまうのでは、と思わず心配してしまうほど。海賊の一人として森繁久彌が出演。スターになるキッカケとなった作品という。

 

あらすじ

 九州西の海を荒らしまわる海賊船・千里丸。密輸船だけを襲い、けして人は殺さないのが千里丸のやり方。(注 いわゆる義賊。大衆ウケする設定)

 大陸の或る港で、停泊中の千里丸に、日本人の子供4人が密かに乗り込んだ。「密輸船で密航して日本に帰ろう」というのが子供らの目的。最年長は18歳のカオル(注 女子だが、危険なので男子のふりをしている)。カオルらは空き船室に潜んだ。千里丸は出航した。

 海賊一味の一人、「二の字」は、偶然子供らを発見。カオルに「日本に連れて行ってくれ」と頼まれ、「明朝、船長の『虎』に話してみる」と答え、子供らをひとまずかくまった。

 翌朝。「二の字」が「虎」に子供らのことを話す前に、千里丸と密輸船の戦闘が始まっている。千里丸が勝ち、密輸船から武器や物資を奪い取る。この様子を見て子供らは、千里丸を「密輸船を取り締まる正義の保安隊の船」と誤解する。(この時、「飛車」が密輸船の一人を射殺。ただし子供らはこれを見ていない)

 強奪成功を祝う宴会。「虎」は「二の字」から子供らのことを聞き「すぐにボートに乗せて千里丸から下ろせ」と命じる。「二の字」は「明日、牛島の近くを通るので、下ろすのはせめてその時にしてやって下さい」と「虎」に頼み、「虎」は承諾する。

 子供らが千里丸を正義の船と思っていることを知り、「二の字」は子供らを宴会に連れてくる。子供らは「取り締まり」成功のお祝いとして「讃美歌」を歌う。(注 子供らが聖書のお祈りをする場面がここまでにも複数有り)

 歌の後、食事係の「独活」は厨房で子供らにご馳走を食わせてやる。(子供らと海賊一味は心を通わせ始めた)「二の字」は自室に子供らを泊めてやるが、カオルのビクつく様子を見て不思議に思う。(まだ女子と気付いてない)

 翌日。「二の字」は「虎」に、子供らが千里丸を「取り締まり船」と誤解していることを話す。子供らは海賊一味を「正義の船乗り」として尊敬の眼差し。牛島が近づき、「二の字」が子供らに下船を命じようとした時、「牛島付近に保安船が集結しているとの無電を傍受した」と無電係の「下駄」が報告に来る。「虎」は直ちに逃げると決め、子供らの下船は後回しになる。ホッとする「二の字」。「下駄」は傍受無電を打刻した紙を「二の字」に見せる。しかしそこには「嘘も方便」と書いてあった。無電を傍受したというのは、実は、子供らを救うための「下駄」の嘘だった。「下駄」も子供らに情が移っていたのだ。(感想 小國氏はこの種の「イキなはからい」を書くのが上手い。それでいてこれを乱発しない。だから効く)

 静かな航海が続いたある日、「飛車」はカオルが女子と気付き、強姦しようとするが、通りかかった「二の字」に撃退される。カオルが女子であることは一味全体に通達され「虎」はカオルに手を出すなと一味に命ずる。

 平和な航海が続き、子供らと一味の仲は深まっていく。そんな中、密輸船との戦闘が起き、大激戦。戦死者も出る。(子供らは親しい人の死を体験する)

 また平和な航海が続いたある日、またも「飛車」がカオルを襲う。「二の字」

が救いに入る。「虎」は罰として「飛車」を海に放り込み追放。「飛車」は腕利きの機関銃使いだったので苦渋の選択だった。

 また平和な航海。一味は子供らと遊んだり、賛美歌を歌う日々。「虎」も子供らにタジタジ。ある日「チャック」はつい口を滑らし、千里丸が海賊船であることをカオルに言ってしまう。カオルはショックを受ける。

 千里丸は密輸船を見つけるが、「飛車」がいなくなり機関銃撃ちがいないので襲撃を見送る。悔しがる一味。

 千里丸はまた密輸船を見つけ、今度は襲撃するが苦戦。「チャック」が戦死する。

 千里丸は航海中、大嵐に襲われる。嵐の中、カオルは「二の字」に「この船は海賊船なの?」と訊く。カオルの中で疑いの気持ちが大きくなっていた。

 大嵐の影響で千里丸は燃料が底をつく。一味は、近くの手島(密輸船の巣窟といわれる危険な島)に行くか、それとも、帆による運航でもとの港に戻るかの選択を迫られる。もとの港に戻るのは子供らがかわいそう、という結論となり、千里丸は手島に向かうが、千里丸に復讐しようと待ち伏せていた密輸船団に包囲されてしまう。千里丸は総攻撃を受け大ピンチとなるが、間一髪かけつけた保安隊に救出される。千里丸は逮捕覚悟で保安隊にSOSを送っていたのだ。(自分たちの逮捕より子供たちの帰国を優先した)

 保安本部の法廷で、千里丸一味への取り調べが行なわれる。傍聴席には娘らしい服装をしたカオルの姿も。一人目の証人はなんと「飛車」。「飛車」は漂泊の末、別船に救助されていた。「飛車」は「千里丸は極悪非道の船」と証言し千里丸一味は窮地に立たされる。

 そこへ二人目の証言者が登場。それはなんと、保安隊制服姿の「二の字」。「二の字」は実は保安隊の潜入捜査官。「千里丸は密輸船だけを襲い、殺人は犯さない」と証言し、罪は軽くなる見通しとなる。

 取り調べ後、「二の字」は同僚らに制服のズボンを借り、それを千里丸一味にはかせて保安隊員のカッコウをさせ、カオルや子供らと対面させる。(感想 感動的場面。泣かせの材料もあり)

 子供らとの対面後、連行されていく千里丸一味に、子供らの親が礼を言う。

 千里丸一味は護送車で運ばれていく。終 

 

戦闘シーンと平和な航海シーンの対比で、飽きさせない作り。戦闘集団と無垢な人々の交流という点では『七人の侍』(『海賊船』の3年後に公開)の原型という感じもする。