『夢の砦』小林信彦

新潮社 1983年刊 

当時の売価1600円 

もともとは『平凡パンチ』に

1981~82年に連載された小説。

古書店で600円で買った。 

細かい活字で2段組、

570ページもある長い小説。

 

(あらすじ)

小林信彦の自伝的小説。

1960年代はじめ、

28歳で無職となっていた主人公は、

ふとしたキッカケから大物小説家に

呼び出され、その小説家が主宰する

ミズテリ小説雑誌の編集長を依頼される。

引き受けた主人公は苦労の末、

人気の無かった雑誌を完売雑誌に成長させる。

マスコミ注目の編集者になった主人公は

テレビ、ラジオに出演するようになり、さらに

新雑誌の創刊、ミュージカル舞台の原案と

大きな仕事を任される。

新時代のサブカルをリードするメンバーだけの

雑誌を作りたいという夢に向かって

主人公は走り始めるが。

 

(感想)

若者の夢が、利益優先の企業論理とか

人間関係の複雑さによって打ち砕かれ

挫折していく物語。

20年くらいぶりに再読したが、

今回は面白く読めた。読書に慣れて

知識も多少ついて、小説の読み方も

少しはわかってきたせいかもしれない。

私には60年代という時代に憧れがあり

雑誌編集という仕事にも興味があるので

面白く読めた。

人間臭い雑誌が作られていた時代の物語。

基本的には「巻き込まれ型」の話。

 

赤木圭一郎の事故死、

映画『ウエストサイド物語』の衝撃、

常磐線三河島事故など

当時のニュースがフンダンに挿入される。

主人公の恋愛とか悪口録音事件とか

フィクションぽい部分はあまり面白くない。

 

雑誌が人気となるが、すぐに落ち目になる

ところが現実的。

 

主人公が横溝正史に会いに行く場面有り。

横溝ファンの西村賢太はこれを読んだろうか?

青島幸男らしき人物も登場し、

魅力的に動き回る。

ラスト近くの東京ウンチクは不要。

この作者の悪癖。