ネタバレあります。

 

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」
小説 村上春樹 

 

2013年に刊行された小説。

2014年以来の再読。

ブックオフで買った。100円。初版。

「騎士団長殺し」も100円なら買いたい。

 

(あらすじ)

主人公は36歳の独身男。

ちゃんとした職業についている。

彼は高校時代、仲の良い男女5人のグループに

属していたが、なぜか20歳の時、

他の4人から絶縁を言い渡されてしまった。

彼は死を考えるほど苦悩した。

その傷をかかえたまま36歳になった彼は

ふとしたキッカケで、自分はなぜ

20歳の時、仲間から絶縁されたのか

その理由を知るべく、

4人を順番に訪ねる旅に出る……

 

(感想)

俺なら36歳になって、20歳の時の出来事の

原因を探る旅になんか出ない。

たいていの人はそうだろう。

村上小説の主人公ならますますそうだろう。

「やれやれ。」で済ませちゃうのがムラカミ的。

ところがこの小説では、主人公は旅に出ちゃう。

そこが上手い。旅に出る理由付けが巧妙なので、

読者は自然に読めてしまう。

ここが村上氏の上手さ。

こう展開できれば、そりゃ面白い小説になるよね。

 

最初は「こんな目に遭ったら人はどうなる?」

というところから発想し、

その後の展開、原因、真相などは後付けで考えて

書いていった小説なんじゃないかな~と

思いながら読んだが、村上氏は以下のように

発言しており、まんざらハズレでもなかった

ようである。

 

以下引用

 

「出来事を追うのではなく、意識の流れの中で

出来事をばらばらにして乗っけていった。

3、4年前だと書けなかった作品だと思う。

最初は短い小説にするつもりだった。

多崎つくるが過去に(高校時代の)4人の友達から

理由もなく(縁を)切られ傷ついて、

再生していく話だけれど、

4人がどういう人かということや、

絶縁の理由も書かないつもりでした。

でも4人のことがどうしても書きたくなった。

多崎つくるに(恋人の)沙羅が『名古屋に行きなさい』

と言います。多崎つくるに起こったことが

僕にも起こった。『4人を書きなさい』と沙羅に

言われたんです。木元沙羅は僕をも導いている。

導かれるというのが僕にとって大事なこと。導かれ、

何かを体験し、より自分が強く大きくなっていく、

という感覚がある。読む人にもそういう体験があると

いいと思っています」

 

「今回は生身の人間に対する興味が途中からすごく

出てきた。人間と人間のつながりに強い関心、

共感を持つようになった。これまで僕の小説は

1対1の関係が多かった。だから5人というユニットが

今回非常に意味を持つ。本当に人が傷ついたら、

それ(=傷)を見られないですよね。隠したいし忘れたい。

そういう時期がある。人は傷を受け心をふさぎ、

時間がたつと少し開いて…ということを繰り返し

成長していく。この小説は一つの成長物語。

成長するには傷も大きく、

トラウマも深くないといけない」

 

引用終わり

 

ネット上では、この小説は推理小説であり、

沙羅はシロの姉で、沙羅の交際相手は沙羅の父で、

シロを殺した犯人は沙羅の父親、

とする推理をしている人もいるが、

そういう推理小説を、村上氏が上記の記事で

語っているような手法で書くとは思えないので、

やはりこの小説はそういう推理小説ではないと

思います。

 

下に9年前の自分の感想ブログを再掲するが、

「灰田や緑川のエピソードの必要性がわからん」

と9年前の自分は書いているが、

これは「人間は死に憑りつかれてしまうことも

ある」という概念を読者に知らせておくため。

シロがそういう運命をたどったことが

のちに明らかにされるので、そのための前フリ。

そんなこともわからないなんて、

9年前の俺ってつくづく馬鹿だな。

9年前の俺に教えてやりたい。

 

この小説には「この人に会うのは今回で最後に

なるだろう」と主人公が感慨をいだく場面が

たびたび出てくる。

俺も58歳になって、この感じがすごくわかる。

あの人とは二度と会うことないんだろうな。とか

会うとしても、そう何回もは会えないだろうとか。

還暦近くなると、そういうことをよく考える。

きっと村上氏もそうなんだろう。

 

あと、地方から都会に出てきた人の心理も、

おそらく経験に基づいて書いてると思う。

 

灰田は、他の4人を混ぜた存在。

全ての色を混ぜると灰色になる。

灰田が同性愛なのは、アカの性向を

受け継いでいるため。

 

以下は2014年に読んだ時のブログ。

 

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」
文芸春秋・刊 2013年 1700円 単行本

妻の二番目の姉に借りて読んだ。


面白かった。
主人公はなぜ、親密なグループから絶縁されたのか?
主人公は、恋人と結ばれるのか?
大きな興味ポイントがあるので、
最後まで気になって、最後まで読めちゃう。

緑川とか、灰田のエピソードって
必要なのかな。いまいちその必要性がわからない。
それぞれ面白く読める挿話ではあるのだが。
村上さんのことだから、きっと深遠な意図があるのでしょうが。

登場人物の服装とか、景色とか、聴いてる音楽とかが、
豊富な知識によって、きめ細かく描写される。
そのことが、作中人物の行動にリアリティを感じさせる
効果を生んでいる。

登場人物はみな善人で知的。みんながこれほど内省的な人物なら、
この世はもっと快適だろうに。
(まあ、こういう本が売れる、というのは、いい世の中なんだとは
思いますが)
善人の苦悩以外(例えばバカや悪人の葛藤)は書くに値しない、
と、作者は考えているのかな、と思ってしまうほどに、
善意が引き起こす苦悩に焦点を絞って書かれている。

他人のウソによって、人生が変わっちゃう人。変わっちゃう人生。
「ノルウェイの森」のレイコさんを思い出した。
作者はこの手の話が好みなのだろうか。

最後、主人公は彼女を獲得できたのだろうか。
獲得を匂わせる、主人公と彼女のラスト近くの会話だったが。
たぶん大丈夫なんだろうと思う。