『日本傑作推理12選』エラリー・クイーン編

 

光文社カッパ・ノベルス(新書版) 

英語書名『JAPANESE GOLDEN DOZEN』

1977年初版 当時の売価680円

2023年に板橋の古書店で150円で買った。

本の状態から見て新古本と思われる。

 

スゴイ書名なので買った。日本推理小説のベスト12で、

しかも選んだのがエラリー・クイーンときたもんだ。

そんな本150円で買えちゃっていいのか。

 

前書きによると、まず日本の選考委員会が、2500本余りの

小説の中から選んだ作品を英訳してエラリーさんに送り、

エラリーさんが合格とした作品だけを掲載した作品集。

肝心のエラリーさんに何本作品を送ったのかが書いてない。

12本中の12本かもしれないし、1000本中の12本かもしれない。

まあ全部それなりに面白い作品だったし、

これだけのメンバーが揃った本なのでいいですが。

 

以下 ネタバレ有ります。

 

『噂を集め過ぎた男』石沢英太郎

15人ほどが参加した会社の宴会の席で人事課長が急死。

青酸カリ入りのウイスキーを飲んだことが死因とわかる。

自殺か他殺か? 課長は恨まれるような人ではない。

むしろいろいろな相談ごとをいろんな人から持ち掛けられ、

秘密で聞いていた。捜査は難航し事件は迷宮入りしたが、

やがて犯人が動いた。刑事はそれを待っていたのだ。

 
『奇妙な被告』松本清張
強盗犯が逮捕され犯行を自供した。簡単に片付く事件と

思われたが、裁判で犯人は自供を覆し、無罪を主張する。

自供は捜査員に強要されたものだというのだ。

犯人とされた男は裁判の結果無罪を勝ち取る。

実は最初から巧妙に計画された策略だった。

(感想 あれ? 清張先生ならもっと冴えた作品があるはず

だけどな)

 

『死者の便り』三好 徹

ある会社の広報課の社員が自殺した。意外なことに、死後だいぶ

時間が経ってから、その社員からの手紙が新聞社の投書欄に届く。

三途の川のほとりで書いているという。

新聞社社員は調査を始める。すると、自殺の背後に、不自然な

株価工作により大金を儲けた一味の存在が浮上する。

 

『魔少年』森村誠一

主人公は主婦。息子の同級生の少年が、たちの悪い非行少年と知り、

息子に「あの子と付き合うな」と厳命する。その後、非行少年が

起こす事件はますますエスカレートしていくが、

実は背後に黒幕の少年が別にいて、

それは主婦にとって思いもよらぬところに潜んでいた。

(印象深い作品)

 

『断崖からの声』夏樹静子

主人公は新聞社の社員。高校時代のそう親しくないクラスメートと

ふとしたことで再会し彼の家を訪ねる。友人には美しい妻がいる。

主人公は友人の家に泊まる。友人の妻が浮気をしている様子を感じる。

その後、ある台風の夜、主人公はまたその家を訪問する。

ところがその夜、友人の妻が他殺体で見つかる。

友人にはアリバイがあり、妻の愛人が犯人かと思われたが。

 

『優しい脅迫者』西村京太郎

主人公は床屋。実は交通事故で幼児を死なせた秘密の過去がある。

しかし目撃者が無く、バレずに生活してきた。そんなある日、

一人の客が来る。その男はなんと、なぜか事故のことを知っている

脅迫者だった。いいように金をゆすられ続ける主人公。

ある時、主人公は思い余って脅迫者を殺してしまう。

すると意外な真実が明らかになる。

(面白い。いかにも「作ったお話」な感じはあるが)

 

『証拠なし』佐野 洋

会社員が精巧な猿のマスクを使ったイタズラをしたら、

同僚がショック死してしまった。これは過失致死か?

それとも事故か? 話し合う刑事たち。そんなある日、

今度はショック死させた会社員が、マスクを被って恋人を

ビックリさせようとして、驚いた恋人に刺殺されてしまう。

(事件成立の要件にこだわった珍しい作品)

 

『海からの招待状』笹沢左保

舞台は伊豆のホテル。

5人の見知らぬ男女が謎の招待状で集められた。

5人はイニシャルがいずれも「S・K」で、

40日前、同じ和歌山のホテルに泊まっていたという共通点があった。

その和歌山のホテルでは40日前、女性が殺され、

犯人のものと思われるイニシャル「S・K」と入ったハンカチを

死体が握りしめていたのだ。犯人を特定するため

誰かが5人を伊豆のホテルに集めたのだ……。

(キレイに決まっている)

 

『復顔』草野唯雄

捨てられたゴミの中から頭蓋骨が発見された。

復顔技師が復顔を試みることになった。

そのことが報道されたある日、科捜研から若い女が

復顔技師のところに来る。上司から「技術を学んでこい」

と言われたという。しかし実は彼女は科捜研の人間ではなく、

ある狙いをもって技師に接近してきた偽物だった。

(展開に大きな偶然が使われていてそこがイマイチ)

 

『黄色い吸血鬼』戸川昌子

舞台はある商業血液銀行。そこでは精神的弱者を監禁状態に置き

違法な量の採血を行なう行為を繰り返していた。

(SF? 意味がよくわからず)

 

『加えて、消した』土屋隆夫

大学教授の妻が自殺した。

遺体を発見したのは出張から帰宅した夫だった。

妻の妹が姉の死の真相に迫る。

(関係ない二人の死体を並べて心中に見せかけるのが

清張先生の『点と線』だが、この作品は逆に、心中した二人の

遺体の1体を処理して単独死に見せかける)

 

『如菩薩団』筒井康隆

どこにでもいそうな主婦8人のグループ。実は強盗団。

今日も郊外の裕福な豪邸にゆうゆうと押し入り、

冷酷非情にチームワークも手際よく強盗殺人を行なった。

慎ましいものしか奪わない彼女たち。 

手慣れた強盗作業が終了すると、ゆうゆう引き上げていった。

(筒井氏らしいブラックユーモア作品。

ダールの「予期せぬ出来事」に似た味わい)

 

こうしてアンソロジーを読めば、お気に入りの作家に

新たに出会えるかなと期待して読んだが、出会いは無かった。

シンプルな推理モノじゃやはり満足できない。

やはりそこに、人生とか人間が描かれてないと物足りない。

(それを考えると、シンプルな推理モノから出発して

人間ドラマに至った『刑事コロンボ(旧)』や、

『怪獣が出るミステリー・ゾーン』から出発して

『怪奇大作戦』に至った円谷初期作品群はやっぱりすごいな。)

やはり面白い作家は清張先生しかいないな。

次は清張先生の短篇集を読もう。