第13話 厄災の世界樹 | rune,wird

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「それじゃあ、キミ達はこの『厄災の世界樹』って物語の作者なの?」


ローキは米内の口振りと、これまでの出来事を思い出し、ひとつの結論に至った。

米内はゆっくりと頷き、


「作者だが、今はストーリーから外れている。

その証拠が指輪の主人だ」


未完の物語は、指輪の主人がまだ出て来てはいないのだろう。

それにしても、席に座ったオーディン…平内が微動だにしないのが気になった。

ロキはと言うと、笑顔の仮面を貼り付けた従業員が横切る度に体をビクつかせ、ローキに隠れるように腕を引っ張り小さくなっている。


(ボクより大きいんだから、隠れれるワケないのに)


呆れはしたが、この小心者は放っておく事にした。


「この喫茶店は、平内とよく『厄災の世界樹』について話し合った場所を模しているんだ。

しかし、記憶がもう消えかけている…。

幼馴染みだった平内の顔も思い出せない有様だ」


米内は、少しづつ過去を語った。


平内とは幼馴染みで、二人で空想ごっこをするのが小さい頃から好きだった事。

学校もずっと一緒だった事。


『空想ごっこを遊びじゃなく、仕事にしたい』と二人はよく話していて、大学の時に二人で小説を書き出した事。

しかし、平内は事故で突然亡くなった事。

米内は二人の夢を叶えるために、とある出版社に原稿を見てもらおうと、『厄災の世界樹』を書き続けた事。


「だけど、書けども書けども次が浮かばなくてな…」


平内の存在は偉大だった。

二人で考えている時は、面白いようにイメージが膨らんだ。

そのイメージを文章にしようと、試行錯誤したあの日が懐かしい…。


「イメージも文章も出ない…。大学を卒業して就職して、余計に書けなくなった。

仕事のストレスで、病気になって入院して、そのままポックリだ」


米内はサラリと言ったが、ローキはとても驚いた。

自分が亡くなった事を、米内は知っている。


「完成させたい…。ただ、それだけなんだ」


この物語を完成させたい…。

だけど、ラストが書けない、浮かばない…。


「ふーん、じゃあ、ボクが終わらせてあげるよ」


ローキは言った。


「ここに留まるのは苦しいでしょ?

ボクが解き放ってあげるよ」


ローキには考えがあった。

唯一、この物語を終わらせる方法。

この物語のラストは、ローキにはこれしか思い付かなかった。


「『ラグナロク』をおこそう。

『ラグナロク』、『神々の黄昏』…」


そう言うとローキは、ロキの剣を抜いた。


「うわっ!」


腕にしがみついていたロキを蹴り飛ばす。

無銘のハズのロキの剣に、『ルシファー』と名が紅く光りながら刻まれていく。


「どうやら、剣もラグナロクを望んでいるみたいだね」


「何をする気だ」


米内は立ち上がる。


するとローキは、剣になにやらルーン文字を認めた。

剣がたちまち燃え上がる。

真っ赤な炎が、辺りを轟々と照らした。


「ムスペルの火山で鍛えた剣だっけ?

それなら、これはムスペルヘイムの炎と一緒だ」


ニヤリと薄ら笑うと、近くの観葉植物に剣を放り投げた。

たちまち火の手が上がり、燃え広がる。


「なんて事をしてくれるんだ!」


米内は顔を真っ赤にして叫んだ。

ローキは門まで走って行くと、開けようとする。

しかし、ビクともしない。


「あ、やばっ」


自分が脱出出来ないのは予想外だった。

怒りに任せ、米内がローキの胸ぐらを掴んだ。


「この物語を壊す気かっ!」


「何言ってるの?物語を終わらせて欲しいって言ったのはキミでしょ?」


米内に胸ぐらを掴まれたまま、ローキは門に背中を叩き付けられた。


「うっ…!」


痛みで息が止まる。

が、強く押したからか、門が開いた。

背中から地面に倒れ、何とか米内から逃げ出そうとする。

米内は、そんなローキの左腕を掴んだ。

しかし、左腕にしていた金の指輪を掴んでしまい、ローキはスルリと指輪を外して難を逃れる。

と同時に、目眩がした。

暗闇がローキを襲う。


(あれ?この感じ…)


ローキが考える暇もなく、意識は闇へ堕ちて行ったのだった。