幼い頃から通っていた近所の歯医者さん。
当時は何となく歯医者さんは偏屈なものという風潮があった。
うちの近所だけ?
私が高校2年生の夏休みに通院してた歯医者さんは
近所でも筋金入りの偏屈で通っていたが
腕が良いとの評判も高かった。
ある日。
治療が始まってデンタルレントゲン写真?
歯に当てて撮る小さな写真を助手?の女性が撮ると写りか悪かったのか?
歯医者さんが怒りだした。
私は歯の治療が始まると合間の口をゆすぐ以外は
ほとんど目を瞑っている。
この時もそうだった。
でも見えなくても声と雰囲気でわかる。
「これくらいの事をマトモに出来なくてどうするんだ!」
「すみません」・・・
それから後は聞こえない?
かなり長く音のない時間が続く?
私は口を開けなさいと言われて口を開けたままだが?
治療をしてる様子もない。
どれくらい?10分以上は立ってると思う。
勝手に口を閉じたら叱られる。
口を開けたままで薄目を開けてみる。
誰も居ない?と言うよりも二人居る!
治療の椅子は3台あるが私の他におじいさんとおばあさん。
私と同じに上を向いて寝かされて口を開けたまま!
そのまま。じっと待っている。
他人事と思えばカナリ笑える風景である。
教えてあげようかな?
でも歯医者さんたちは何処へ?
大きな声を出して聞こえたら叱られる?
歩いて行って教えてあげたら?
教えられた方もカナリ恥ずかしいのでは?
いろいろ悩んでるうちに?どうでも良いかな?
なんぼなんでも30分近い!
不思議に帰る!という選択はなかった。
今ならとっとと帰るだろう。
それか探しに行くか?
諦めてまたヘソ天で天井を見上げる。
口は?モチロン閉じている!
あら!奥のドアから歯医者さんを先頭にスタッフが後に続く!
私と目があった皆さん。
何もなかったように治療が始まる。
モチロンお二人にも何の説明もなく!
私にも!
今日は目を開けたまま情報収集。
写真を写した人は?明らかに涙目。
スタッフみんな歯医者さんの顔色を伺うように力んで動いてる。
まだ口を開けたままの二人も何も言わない。
気が付いていないのかな?
私の今日の治療はおしまい。
次の予約の人が待ってる。
いつもよりも余分に待ってる筈だ。
お支払いする時も何もなし。
そして私も次の予約を取って「ありがとうございました」って帰る。
何も起こらなかった?
帰って母に話すとクスって笑う。
「あの歯医者さんらしいね」って?
「もう行くのを止めなさい!」なんて言わない。
もしかして?
あのおじいさんとおばあさんも?
「またか!」って二人して余裕で口を開けてたのかな?
そのうち現れて続きが始まるって。
ご近所さん。
あの人はあんな人。
この人はこんな人だからこんな風にお付き合いしましょう。
みたいな?
今でも前を通ると思い出す。
何年も前に亡くなって建物はそのまま。
息子さんは二人とも歯医者さんになって独立している。
患者さんが症状を説明しようとすると
「聞かれた事だけ答えなさい!」って叱られた。
変なの?
思い出しても変なの?
でも何だか懐かしい。
母がクスって笑ったのがわかる気がする。
そんな歯医者さんが居ても良いかな?って。
今だと患者さんのクレームで潰れちゃうかな?