豆腐ほど相手を嫌わぬ者はない。
チリの鍋に入っては鯛と同座して恥じない。
スキの鍋に入っては鶏と相まって相和する。
ノッペイ汁としては大根や芋とよき友人であり、
更におでんにおいては蒟蒻や竹輪と協調を保つ。
されば正月の重箱の中にも顔を出すし、
仏事のお皿にも一役を承らずにはいない。
彼は実に融通がきく、
自然にすべてに順応する。
彼が偏執的なる小我を持たずして、
いわば無我の境地に至り得ているからである。
これが自分の境地だと腰をすえておさまる心がなくして、
与えられたる所に従って生き、
しかあるがままの時に即して振る舞う。
この自然にして自由なるものの姿、
これが豆腐なのである。
俳人 荻原 井泉水 著