小噺シリーズ(6)
「ガリレオ」と「アインシュタイン」の小噺
2024年4月27日
物がなぜ「落ちる」のか。
うっかりと茶碗を落として割ってしまった。ボールを投げると、必ず地面に落ちてくる。秋になると、紅葉の葉が落ちてくる。日常誰もが経験する当たり前の現象である。
このような当たり前の現象を、人類ははるか昔から、何千年も経験してきた。しかし、そのような「当たり前の現象」に、深い「宇宙の原理」が隠されているとは、誰も思わなかった。
ところが、この「あたりまえの現象」に興味を持った人物が現れたのだ。ガリレオ・ガリレイ(1564~1642年、78歳没、イタリア)である。
彼は2つの物体を用意した。重いものと軽いものの2種類である。その2種類の物を同時に落としてみたらどうなるか、という興味、疑問である。
当時の多くの人は、2300年前のアリストテレスと同様、重いものが先に落ちると思っていた。
ガリレオは、その実験を、始めは、斜めに転がす方法でしてみた。すると、2つの物体は、同時に転がったのだ。
次いで、垂直方向で「真下」へ落としてみた。やはり同時に着地した。この実験を今度は、動く船の上で試したところ、やはり同時に真下へ落ちた。
以上の落下実験から、ガリレオは、
(1) モノの落下速度は、モノの「質量」には関係がない
こと。
(2) 動かない地面と、等速で動く船の上でも、物は真下
へ落ちること、を確信した。
以上の落下実験は、20世紀に入り、アポロ15号により、月における真空下での実験でも証明された。
すなわち、金属ハンマ―と鳥の羽根を同時に落として、同時に着地したことを確認したのだ。
重いものと軽いものが、なぜ同時に落ちるのか。
その理由は、質量の「2重性」にある。
つまり、質量には「相反する」2つの性質が「同時存在」していたのだ。「慣性質量」と「重力質量」の2種類である。「落ちにくさ」と「落ちやすさ」という相反する性質だ。
「慣性質量」とは、「落ちにくさ」という物自体が持つ「本来的性質」であり、重力には左右されない。
それに反し、もう一方の「重力質量」は、「落ちやすさ」という重力に左右される性質だ。
だから、地球で60キログラムの物体を、月へもっていくと、10キログラムになる。月の重力は、地球の6分の1だからだ。しかし、「慣性質量」は変わらない。不変である。
つまり、1つの物体には、「絶対的質量」と「相対的質量」の「相反する2つ」が「同居」しているのだ。
アインシュタインは、そこに「慣性質量」と「重力質量」の「等価性」を見い出し、それを宇宙の「等価原理」として仮定し、20世紀最高峰の「一般相対性理論」(重力の方程式)を発見、構築したのである。
そのきっかけは、自由落下するエレベーターの中の人間は、無重力になる(中で浮く)のではないか、という思考実験である。
そこから「慣性力」で「重力」は「消せる」という生涯最高のヒラメキを得たと言うのだ。
天才のすごさは、その先にある。
すなわち、そのヒラメキを、重力の発生原因は「時空の曲がり」にある、という「重力の本質」へ結びつけたことだ。
さらに、それを「リーマン幾何学」という最高に難解な数学で記述したことだ。その難解な数学を駆使して、たった「1本の数式」で表現している。
しかし、その中身には、膨大な数式が隠されているのだ。本物の持つ「単純」と「複雑」の同時存在である。
だから、その「アインシュタイン方程式」は、21世紀の今でも、多くの物理学の大学生と大学院生たちを挫折させるほどのすごく「難解な数学」となっている。
非線形(曲線)で、10元連立方程式で、偏微分で、テンソル形式、というものである。
天才のアインシュタインでさえ、10年間という歳月を費やしたほどのものだ。
大学生向きの「相対論」の専門書を書いた大学教授は、アインシュタインがその数式を作り出したことに対し、「驚嘆すべきこと」と表現している。「難解な中身」を、たった「1本の数式」で表現した、という意味だろうか。
そして、その後100年間にわたる観測的、実験的検証でも、アインシュタイン方程式は、一切の変更を迫れなかった事実も、また驚嘆すべきことである、と表現している。「本物のすごさ」という意味だろうか。
ガリレオは「宇宙は数学の言葉で書かれている」と言った。その後のケプラー、ニュートン、そしてアインシュタインという天才たちが、数学の方程式で、重力の秘密を解き明かしてきた。
それによりブラックホールの存在、重力波の検出がなされてきたが、なお未解決問題が山積している。
ダークマターやダークエネルギーの出現である。
その先に「宇宙の始まり」問題がある。宇宙はどういう形、仕組みで始まったのか。
その大きな謎解きに、現代の物理学者たちが、果敢に挑んでいるのだ。その先頭に「超ひも理論」が走っている。
スポーツ界では、野球の大谷翔平、ボクシングの井上尚弥、さらに将棋の藤井聡太という日本人天才が出現している。
物理学の世界でも、21世紀の宇宙観測機器の進化による世紀の大発見、そして、それを契機とした理論物理学の天才の出現が期待される。