(63)プレゼント
レストランアモーレのクリパから数日が過ぎた。
相変わらず仕事は忙しいし、年末年始で稼働日数が少ないうえに、気分的にいろんなことを年内に終わらせたい気持ちが働くから、年末最終日に向かってどんどん締め切りのスケジュールがやってくる。
だからデートと言えばやっぱり、大野さんのお店で晩ごはんを食べることになる。
連日通うから大野さんは笑って、毎日おいらのご飯食べてて飽きないの? と楽しそうに笑われた。
お店出してるのにそういうこと言う大野さんは確かに相葉さんの言った通りちょっと変わっている。
『大野さんの料理はなんでも美味しいからね。今日はなにがお奨め?』
「アイナメ」
『じゃ、それ煮つけお願いね』
「あいよ」
『はぁ~毎日忙しいね』
カウンターの中の大野さんは思いのほかてきぱきと動く。
それをちらっと見てから笑って席につくと、向かいの相葉さんはかなり疲れた様子で、いつもはあまりマイナスなことを口にしないのに、珍しくおしぼりで顔を拭きかねない勢いでぼやいた。
疲れてるなあ。
無理もない。元々忙しい人なのに、今はいろんな締め切りが重なっててちょっとオーバーワーク気味。
なのにこうして時間を作ってくれて私と食事したり、少しでも一緒にいられるようにしてくれる。
小さな店内に3つしかないテーブル席は私達が座ったら満席になった。師走だからって特に混むわけじゃなく、いつものお客さんがいつものようにご飯を食べて、ほっとできるお店。
大野さんのアイナメの煮つけが来るまで、しばし相葉さんとご歓談。
『波奈ちゃん、今度のクリスマスなんだけどね』
「はい」
『予定ある?』
「いいえ」
あるわけないです。
というか、相葉さんとのクリスマスが規定の予定として設定されているので、今のところすべての予定をシャットアウトしております。
『僕ね、その日誕生日なの』
「言ってましたよね。なんか珍しいっていうか特別な日っぽくていいですよね」
相葉さん自身が私に幸せを運んできてくれるサンタさんなのに。
相葉サンタのお誕生日とか、素敵な記念日過ぎる。
『良くないよ。いっつもプレゼントとかひとまとめにされちゃって、子供のころはブーブー言ってた』
「それは損しちゃいますね」
『だからね、プレゼント欲しいの』
「何がいいですか? 考えてるんですけどなかなか決まらなくて。ご希望を教えてくれたら助かります。本当はサプライズがいいのは分かってるんですけど」
なににしようかすごく考えたけどまだ何も決まってなくて、前にお土産にもらった四葉のクローバーに小さなテントウ虫みたいなロゴがついた、あの素敵なボールペンに勝るような何かをあげたいのだけど、なかなかこれといったアイデアが浮かばない。
おしゃれでセンスのいいカッコイイ彼氏に何をあげたら良いでしょうか。
『クリスマスはずーっと一日中一緒にいてね』
「はい」
『ね?』
「はぃ」
それだけ?
更になにか希望の物を言ってくれるのかと思って待っていても、相葉さんはにこにこと笑うばかりで何も言わない。
「あの、何がいいですか? 希望の物、言ってくれた方が助かるんですが」
『だから一緒にいて。一緒に過ごそう』
笑いながら、相葉さんの手があがった。
長くて少し骨ばった人差し指が真っすぐ私を指した。
『僕の欲しいもの』
いつもより少し真面目な声が言って、いたずらっぽく光る瞳は私を見た。
『いい?』
少し潤んだ黒目勝ちの瞳が色っぽい。
やっと意味がわかって、急いで顔をそらした。
強い視線にさらされて、横顔が焦げそうなほど熱いし、本当はまだあの時みたいになるのが怖い。
でも。
「…はい」
小さな声で応えた。
信じるって決めたから。
『良かった』
無邪気に聞こえるほど嬉しそうに言った相葉さんの声は、少し掠れていた。
→(64)