(35)お土産
季節は夏の盛りを迎えた。
二宮さんに言われたなぞなぞは、まだ答えが見つからない。
ほかの人、って元カノさんのこと?
それとも違う誰かのこと?
私は元カノさんとは違う人。そんなの当たり前過ぎてどういう意味を持つのかわからない。
仮に元カノさんと私は違うんだと言われたのなら、私は相葉さんから恋人として見てもらえる可能性は永遠にないから諦めろってことなのか。
ピースが少なすぎて考えても全然わからないけど、相葉さんと仲のいい二宮さんにそう言われたら、そのことはとても重い意味を持った。
距離感を間違えちゃいけないんだ。
じりじりと暑い日が続いた、そんなある日。
『お土産だよ』
相葉さんの声がして、机に向かう私の目の前の書類のうえに、小さな袋がぽとんと置かれた。
それはどこかのお土産物屋さんの包装紙に丸いシールが貼られた、細長い紙袋。
見上げると、相葉さんがにこにこして横に立っていて、『それ、波奈ちゃんに。良かったら使ってね』と言うと、更にもうひとつ、薄い大きめの紙箱も机に置いた。
『こないだ、セミナーに行ってきたんだ。そのお土産。そっちのお菓子は皆さんのだから、後でみんなに配っておいてくれる?』
「ありがとうございます」
書類のうえの小さな紙袋に目をやると、相葉さんはすっと身体を下げて顔を覗き込むように、『そのお土産は波奈ちゃんにだけだから、早くしまって』と小声で言った。
「は、はい」
あわてて引き出しに入れる。
『じゃ、そっちのお菓子は頼むね』
「わかりました」
あとで休憩時間に配るためにお菓子の箱を給湯室に置きに行って、席に戻ってくると、相葉さんは隣の席でくるりと椅子をこちらに向けた。
『波奈ちゃん。ちょっといい?』
「はい」
『僕がこないだ行ってきたセミナーなんだけどね、参加者にだけ配布される資料本があるんだ。…見て』
相葉さんが資料を示しながら説明してくれたところによると、このセミナーで配布される資料本はかなり良質で、使える冊子と評判なのだそうだ。
内容も常に最新となるようにこまめに改編されていて要領よくまとめられているし、編者がかなり博識で分かりやすく、解説資料として詳しくて、入門書としてもちろん使えるし、問題提起も的確だから上級者にも使える、非常に使い勝手のいい本だということらしい。
『このセミナーには入門コースもあるからね。波奈ちゃんも機会があったら行ってみるといいよ』
「はい」
機会があったら行ってみるといいよ。
ということは、相葉さんはこのセミナーに私を誘う気はなかったし、今後もない、ということだ。
だって図書館に行ったときは、また今度って言ってくれたのに、もう、あの口約束は相葉さんのなかで消えちゃった、ってことかな。
二宮さんが言っていたのはきっと、私は元カノさんとは違う人間なのだから、私が彼女になれることはないってことなんだ。
ただの先輩後輩なら自然なことなのに、ひどく寂しく感じるのは、私が余計な気持ちをまだ持ってしまっているからだろう。
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