古い木でできた白い椅子
奈緒子はやっぱり喋らない
せっかくのメーベルとクリスマス
奈緒子はいつでも喋らない
今すぐ紅茶をいれろと言った
メーベルに執事がうろたえる
紅茶屋も何も閉まったまんま
ティーカップすらままならぬ
メーベルは執事を怒鳴って殴る
執事は執事で泣きじゃくる
奈緒子はなおも黙ったまんま
今夜のお出かけはタクシーで?
それとも今夜はお休みで?
メーベルはヒステリーを止めないまんま
泣いた執事に癇癪を起こす
今夜は紅茶を飲みますか?
いっそこのまま逃げますか?
そうはいかないといわんばかりに
メーベルは執事を踏ん付けた
ついでに奈緒子も踏ん付けた
陶器の尻で踏ん付けた




・・・




かわいそうだと哀れむ執事
奈緒子はやっぱり喋らない
メーベルはむっつり顔を凍らす
奈緒子は今でも喋らない




・・・




いつか奈緒子に口ができれば
メーベルはきっと喜ぶのにねと
執事がうっかり口を滑らす
こいつはつくづくだめな野郎だ
そうでなければ、だめな野郎だ
奈緒子の顔は強張ったまま
メーベルが気に病む奈緒子の顔面
執事の間抜けも気にはならない
何はなくとも奈緒子、なのだ
何をおいても奈緒子、なのだ
クリスマスだよと囁いたって
奈緒子はやっぱり喋らない
奈緒子は今でも喋らない
紅茶をお持ちしましたと
ぬけぬけ現れた執事の顔に
紅茶を思わずぶちまけた
奈緒子はやっぱり喋らない









(vendredi,26,decembre,08)

犬が笑う
猫が笑う
くたびれ果てた
ドアの外
犬が泣いても
猫が笑っても
寒い寒いねずみのメリークリスマス
寒い寒いねずみのクリスマス
ドアの外にはくたびれたねずみ
そもそも猫なんていやしないのだ
ねずみが怯える
クリスマス
寒い寒い犬のクリスマス
寒い寒いねずみのクリスマス




・・・




猫はどこかへ行きました
あれだけ姿を見せといて
モモもドッペルもいやしない
あっぱれ!最高のはたらきだ、
今年一番のお手柄だ
猫なんていたらクリスマスにならない
寒い寒いねずみの
クリスマス
犬にその意味がわかるだろうか
犬に意味なんてあっただろうか、
猫が笑った
ねずみが怯えた
哀れな犬はひとりきり
泣きも笑いもしないまま
白いその毛のくたびれた
黒ずんだ毛にねずみが哀れむ
寒い寒いねずみのクリスマス
今夜は犬も暖かく
寒いのはねずみで十分だ
猫はどこかへ行ったきり

















(mercredi,24,descembre,08)
メーベルの首が落ちたのは
なんにもしてないからじゃない
そんないかした理由はいらない
たとえば座りすぎだとか
ほかにもずっと笑うからとか
そんなきれいな理由いらない
そんなすさまじい理由いらない
そんなかわいい理由はいらない
とどのつまりになんにもいらない
やっぱり結局なんにもいらない
そんな小さな理由いらない
大きくたって、そんなの知らない
なんでをそんなに繰り返さない
奈緒子はやさしい
理由もないのに
早く修理屋が見つかるといい
もっと真剣に探せば、いい
そんな過程はどこにもいらない
なんにもいらない、




・・・




過程をどうやってすっ飛ばしたんだ、
モモメ
最近、
うろつく猫のコモモがいる










(mercredi,22.avril,09)
待っていた明日の天気予報を
今か今かと気にするうちに
いつのまにか 昨日になってしまった
昨日になってしまっていた








昨日の天気が曇りのち雨
今か今かと気にするうちに
いつのまにか
もっと昔になってしまった
すごく昔になっていた




氷河期に飛ばされた執事を追って
今か今かと昔を待つ
氷の上は今日も晴れ
今か今かと雨を待つ




執事はすっかり冬仕度
とがったつららを集めて積んで
霜柱でもつくろうか
いっそこのまま逃げようか





寒いと言って泣いた執事の
涙がやっぱり凍らない
甘ったれるなと叱りつけると
執事はやっぱりまた泣いた





寒い寒いと繰り返す執事の
涙を集めて、ぶっかける
寒いと言う間もないうちに
執事はつららになってしまった
熱いお風呂が恋しいと
つららの中で、執事は泣いた
甘ったれるなと叱り付ける
お前が風呂に入れるなんて
執事の分際で生意気な
入ったこともないくせに





熱い紅茶を一杯欲しいと
つららの中で執事は泣いた
執事の流した涙も今では
熱い紅茶を欲しいと泣いた





ぎゃあぎゃあ泣くなとまた叱る
執事はますます泣くばかり
凍った空は、今日も晴れ
雨が降るのを待つばかり












(mardi,28,octobre,08)
誰も来やしない
午前4時
来られたところでいっそう困る
磨いた窓と
滑らかな床
お茶の準備にティーカップ
こんなもの待っていなかった
こんなもの待っていなかった
早くわたしの
左足
つって反り返る
左足
ありったけのお茶を持って来い、と
執事はどれだけ待たせるだろう
わたしはどれだけ待ったろう
鳴らないドアからすきま風
ああ、今夜も午前4時
そろそろ左の足のつる
右足ぐっすり夢の中
どこまで夢を追いかけた?
右足の夢は左足
その足の先の親指は
紅茶をずっと待っていた




きっと一生飲めないねえと、
右足の寝言に左の足が
思わず指を折っていく
一本一本曲げて延ばして、
時折骨が砕けても、
きっと一生待ってるねえと、
ぽきりと鳴った指に構わず
右足寝言を続けるばかり
遅れた執事がやって来た




・・・




きっと一生待ってるねえと、
執事がわたしに紅茶を入れる
左の足はおとなしく
執事の紅茶を見つめるばかり
きっと一生飲めないだろう
右足すっかり夢の中
反って止まない左の足が
声もたてずに泣いていた




鳴らない扉
すすり泣く足
こんなものなんてひとつもいらない
ずっと今まで
ずっと先まで
こんなものなんか待ってなかった
こんなものなんか待ってなかった




・・・




執事の紅茶は雨模様
カーテンの向こうの太陽に
つくづく執事の使えないこと!
窓の先から差し込む陽光
思わすうつむいた執事がなんだか
哀れに思えて仕方ない













(mercredi,24,decenbre,08)
リッターの中に風邪薬をひとつ
まぜるとひとつばくはつする
した
みた
ばくはつ
した
見て
かった

・・・




風邪薬の中に微熱をひとつ
いれれば今夜はつねつする
体温計は知らん顔
黄色い部屋を後にした
アトニス

原子
回路

・・・





共通したのは森の中から
回路がひとつ、通過する
アトムは今日も知らん顔
はつねつなんて知らん顔
おとなしく燃えた薬を混ぜて、
眠る、
朝の部屋のなか
黄色い顔は微熱中
ほんとだろうか
本当だろうか
アドニスは今日も知らん顔
風邪に負けじと薬をひとつ
爆発をしんと待っている











(vendredi,25,jeuillet,08)
古くさいアパートの目の前に
早くも梅の花の満開の
その下に鄙びた三毛猫が一匹
加えてよくいるドラ猫が一匹
しきりに毛を繕う事甚だしい
猫のくせに加えてひどく図々しい
仕方がなかった
長い冬
猫なんてこんなものだ
梅なんてこんなものだ
猫の尻尾は枯葉色
お前なんて可哀相なのだ
お前なんて可哀相なのだ
尻尾を思い切り引っこ抜いてやろうとしてやめた
猫は、こわい







猫の目の前に教会が一匹
神父さんはきっとこんな言葉を吐かない
猫なんてこんなものだ
梅なんてこんなものだ
シンプソンはいつだって知らん顔
仕方のなかった
長い冬
猫め
お前なんて毛でも繕っていれば、いいのだ
それだけで、いいのだ













(vendredi,8,fevrier,08)
わたしの家には
おしゃべりなオウムが一匹住んでいて
夜になるときまってオウムは
わたしの腹をついばみにベットへやってくる



なんたる悪漢!
わたしの体をついばみにやってきます
わたしの肩で羽を休めて
わたしの中へ潜り込んでいくのです、




さっきまで泣いていた子供は息をひそめて
鐘の音が遠くに聞こえます
オウムのやってくる木の下で
オウムのやってくる木の下で



あーあなんたる悪漢!
オウムのくせにいつだって夜を待つ、
ひとこともしゃべらずにいつだって夜が来る、




黄色い部屋はいつだってしたり顔
あの鐘の音が聞こえますか?
あの鐘の音が聞こえますか?
いつかあの鐘へ行けたなら?…
いつかあの鐘を鳴らせたら?…
いつかあの鐘を黙らせたなら?…
こどもがうるさがって泣き喚く
あの鐘の音を止めたなら?…



鐘の音を止める
いつかわたしもオウムになって
わたしもついばみにいってやる
かわいいこどものかわいいおなか
いつかオウムになれたんだったら
今ここで待たなくてもよかったのに
オウムを待たなくてもよかったのに



ふかふかのシーツ
大きな枕
あったかい布団にくるまった
冷たい内臓がとろりと溶けた
オウムが笑って一緒に溶けた、




ちいさいかわいい小鳥ちゃん!
わたしのかわいいヒナギクの花、
鐘が鳴る
夜が来る
いつか誰かが留まったまんまの
川にかかった橋の上で、休む
オウムのふりをして
知らないように
オウムのふりをして
知られないように、





いっそオウムになれたなら?
いっそオウムになれたなら?





もう間に合わないと思っていた電車にあわてて飛び乗った
わたしのかわいい小鳥ちゃんを抱いて、
胸の中でこどもの声が途絶えた
あとはまた夜を待つばかり

















(mercredi,25,avril,07)


いつかエレベータで吸った空気の
忘れて美化した淀んだ空気の
忘れて懐かしむ淀んだ空気の
わざと懐かしむ淀んだ空気の
わたしは花火なんてものはごめんだ、
ごめんね、
ごめんだ、
ごめんね、
ごめんだ、…
今まで絶対謝らなかった
たぶんこれからも謝らないで、
エレベーターにのって帰ろう、
逃げよう、
花なんか買ってごまかして、






電車の窓から青い空
花火をしんと待っている
待たれた花火は正直しんどい
テレビの見すぎだ、花火の野郎
待たれた空は花火を待たない
おひさま沈んで朝がくる
夕日を沈ませて朝を呼ぶ
夜を飛ばして朝を待つ





たぶんわたしよりずっと優しい
8月4日の今日の空
花火職人にリウマチひとつ
盆踊りのやぐらにヒビひとつ
エレベータにのって降りよう、
降りよう、
ついでにそこから逃げちゃって





だれも見やしない今日の夜
花火は待たれてふくれ面
空は待たれて得意顔
忘れて置き去りの犬が一匹、
エレベーターに駆け込んだ
今夜はぐっすり眠れるように、
今夜はぐっすり眠れるように、…
エレベーターにのって帰ろう、
帰ろう、
きれいな花なんか買っちゃって









(mercredi,4,aout,10)
足のうらのかさぶたに聞いてみる
赤い酋長の身代金
足のうらのかさぶたに聞いてみる
赤い酋長の身代金




赤い酋長の身代金
あのとき聞いた身代金を、
なんとでも払ってしまえばよかった
なんとでも払ってしまえばよかった
なんとでも忘れていたかった



赤い酋長の身代金
なんとなく知ってはいたけれど、
なんとなく知ってはいたけれど、
赤い酋長に身代金を、
赤い酋長の身代金?

赤い酋長は
元気、元気、元気、…元気?…
どうして払ってしまわなかった?
ちいさな酋長の身代金
どうして払っていなかった?




ずっとそうして、足のうらから起こった亀裂
やけどの跡をそっとさすった
裂けた皮膚からぽろぽろ落ちる、
砕ける、
逃げる、
砕ける、
裂ける、…
赤い酋長の身代金を
あのとき払ってしまえばよかった
赤い酋長の身代金、
ばらばらに砕けてしまうより前に
ぱらぱら落ちていくより先に
何度でも払っていたかった
何度も忘れていたかった




赤い酋長は裸足で駆け足
どうして砕けてしまわなかった?
どうしてそうしてしまわなかった?
赤い酋長に聞いてみる
どうして砕けていたかった?








(mardi,10,avril,07)