私が主人の実家のある 室蘭の母恋を訪れたのは、今からもう 30年以上も前のこと。

それまで オホーツクの 荒々しい海しか 見たことがなかった私は
水平線が 丸く見える この地球岬の
美しさに 一瞬にして 目が釘付けになった。



「お母様。ここは本当に きれいな場所ですね」
そう つぶやいた私に 姑は
「死にたくなった女は、みんなここへ来るからね」
と 意味深なことを 言った。




「女郎」と「タコ部屋」
そして 「アカ」と「キリスト教徒」

曽根富美子氏の「親なるもの 断崖」



教科書では教えない歴史を この本は 書いている。



思わず 目をそむけたくなるほどの
生々しい描写に
抗いがたい 人間の性(さが)を感じ
どうしようもなく 胸が苦しくなる。



泣いて 泣いて 泣いて
涙 かれるほどに泣いて
でも、それでも死ぬことを選ばない
人間の 貪欲さ、罪深さ。
そして みずからの 運命を受け入れることの強さに
ただ、ただ、感動する。


今の 北海道に 豊かな平和があるのは
この地球岬の 断崖絶壁をさまよい歩いた人たちの
血を吐くような 労苦の礎によって
築かれてきた 平和であることを 私たちは 忘れては ならないと思う。