いつのことか忘れてしまった。サルツブルグ音楽祭でフィガロの結婚を聴きにいった。
レヴァイン指揮のウイーン・フィルハーモニーが冒頭いきなり、フリーメーソンの葬送曲を演奏し始めた。
会場はただならぬ緊張感に包まれた。誰かが亡くなったのであろうことは想像に難くない。
だれも終わってから拍手をしない。ひたすらひたすら、それはそれは長い長い沈黙が続いた。とはいっても
時間にしてほんの数十秒のことであろう。稀有な音楽体験であった。
当日のフィガロの結婚 の演出者の ジャン・ピエール・ポンネルが前日に急逝したのを知ったのは一幕が終わってからのことである。
1988年 8月13 日のことと思われる
