育休はない。でも、私たちには「私たちなりの育休」があった。夫がUber Eats配達員でよかったと思った日
夫がUber Eats配達員でよかった。
そう強く感じるようになったのは、子どもが生まれてから。
……というより、
本当は妊娠中からだったのかもしれません。
当時、私たちが住んでいた家の近くには
産院がありませんでした。
最初に通っていた病院も、
電車とバスを乗り継いで40〜50分ほど。
その後、私は都立病院へ転院することになりました。
その病院までは、車で約40分。
当時はコロナ禍だったこともあり、
妊娠中に公共交通機関を使って
長距離を移動することには不安がありました。
妊婦健診は、最初は1か月に1回。
それが2週間に1回になり、
出産が近づくにつれて1週間に1回、
時にはさらに短い間隔で病院へ行かなければならないこともありました。
しかも、病院に行けばすぐ終わるわけではありません。
午前中に家を出たのに、帰ってくるのは夕方。
そんなことも珍しくありませんでした。
それでも夫は、毎回のように病院へ連れて行ってくれました。
コロナ禍だったので、
病院まで一緒に来ても中には入れません。
診察が終わるまで、近くのカフェなどで何時間も待っている。
今考えたら、
「ものすごく長い待ち時間だったな」
と思います。
それでも、ずっと近くで待っていてくれました。
そして妊娠中は、
予定通りにいかないことの連続です。
急にお腹が張ったり、
痛くなったり。
突然、病院へ行かなければならなくなったり。
場合によっては、そのまま入院になることだってあります。
「あれを持ってきて」
「これが必要になった」
そんな突然の出来事にも、
夫は対応してくれました。
配達中の商品さえ持っていなければ、
仕事を切り上げてすぐに来てくれる。
その働き方が、当時の私には本当に心強かったです。
出産には予定日があります。
その前後に合わせて仕事を休んだり、
有給を取ったりするお父さんもたくさんいると思います。
でも、赤ちゃんは予定通りに生まれてくるとは限りません。
私たちの場合は、
「何かあったら、その時に帰ってくる」
それができました。
決められた勤務時間がない。
自分で仕事を始める時間も、
終わる時間も決められる。
収入が安定しないことばかりを心配していた私が、
初めてその「自由さ」に心から助けられたのが、妊娠中だったのだと思います。
そして、子どもが生まれました。
私は正直、出産したら一人で子育てをするものだと思っていました。
Uber Eats配達員に「育休」はありません。
会社から育児休業をもらえるわけでもありません。
休めば、その日の収入はゼロです。
だから、夫はすぐに仕事へ戻るものだと思っていました。
でも、実際は違いました。
初めての赤ちゃん。
私も夫も、何も分かりません。
部屋の温度はこれでいいの?
ミルクは?
母乳は?
おむつは?
お風呂は?
寝かせ方は?
これで本当に大丈夫?
毎日、二人で「ああでもない」
「こうでもない」と言いながら、
必死に赤ちゃんのお世話をしました。
「これをしなかったら、この子が大変なことになるかもしれない」
初めて命を守るという責任を背負って、
目を閉じる暇もないくらい必死だった気がします。
とにかく眠い。
お腹も空く。
でも、赤ちゃんのお世話をしなければならない。
楽しかった。
かわいかった。
幸せだった。
でも、それだけではありませんでした。
本当に、本当に大変でした。
そんな最初の1か月。
夫は、ほとんど家にいてくれました。
育休を取ったわけではありません。
そもそも、育休なんてありません。
それでも家にいて、赤ちゃんのお世話をしてくれました。
家事をしてくれました。
ご飯を買ってきてくれました。
買い物にも行ってくれました。
そして少し時間ができたら、Uber Eatsの配達へ行く。
数件配達したら、また家に帰ってくる。
家のことをして、赤ちゃんのお世話をして、
また時間ができたら配達へ行く。
そんな生活でした。
もちろん、一日中配達していた頃と同じようには稼げません。
当時の収入は、普段の半分くらいまで減っていたと思います。
でも、ゼロではありませんでした。
赤ちゃんのそばにいながら。
私のそばにいながら。
家事と育児をしながら。
空いた時間を見つけて、家族のために働いてくれていました。
今振り返っても、あの1か月のことは忘れられません。
私も必死だったけれど、夫もきっと必死だったと思います。
赤ちゃんと一緒にいたい。
私を一人にしたくない。
でも、お金も稼がなければならない。
そんな中で、
寝る時間も惜しんで
家族のために動いてくれていました。
そして1か月が経ったとき。
私は、
「私たち二人で、この子を1か月育てたんだ」
と思いました。
たった1か月。
でも、あの頃の私たちにとっては、とても大きな1か月でした。
大変だった。
眠かった。
苦しかった。
でも、楽しかった。
二人で一つの命を守って、
なんとか最初の1か月を乗り越えた。
そのときに感じた達成感のような、
感動のような気持ちは、今でも私の心に残っています。
「あんなに大変な1か月を二人で乗り越えられたんだから、私たち二人なら、きっと何でもできる」
今でも、どこかでそう思っています。
夫が会社員だったらどうだったのか。
それは私には分かりません。
会社員には会社員の安心があって、
育休という制度もあります。
Uber Eats配達員には、
決まった育休もなければ、
休んでいる間の収入の保証もありません。
自由である代わりに、休めば収入は減る。
それが、この仕事の厳しい現実です。
それでも私たち家族にとっては、
自分たちの状況に合わせて働く時間を変えられることが、
大きな支えになりました。
必要なときには家族のそばにいる。
時間ができたら働く。
また家に帰ってくる。
それは制度としての「育休」ではなかったけれど、
私たちには、私たちなりの育休があったのだと思います。
あのとき、夫がUber Eats配達員でいてくれてよかった。
子どもが生まれて初めて、心からそう思いました。
そして同時に、
「この仕事を1年間、続けてきてくれてありがとう」
そう思いました。
最初は「そんな仕事、続くわけがない」と思っていた私。
でも1年後、子どもが生まれた私は、
「配達員でいてくれて、ありがとう」
と思っていました。
Uber Eatsという仕事に対する私の気持ちは、
この1年で大きく変わっていました。