ヒィ ヒィ フゥー
ヒィ ヒィ フゥー
ヒィ ヒィ フゥー
目の前に並ぶ
10個のビーカーを
交互に 見比べながら
マスクの下の 僕の呼吸 は
いつのまにか
ワルツのリズムを刻んでいた。
ヒィ ヒィ フゥー
ヒィ ヒィ フゥー
先程、工場に戻った僕らは
今にも
色が変わり始めそうな
ビーカーたちに
注意深く 目を凝らしていた。
孫ちゃんは
ANA の CA のように、
左右に 目配せしながら
白いフロアを
ゆっくりと行き来している。
そして
「立ち会い出産に臨む、
新米パパ予備軍」のように
ソワソワと落ち着かない 僕は
ひとり 密かに
ラマーズ法の呼吸を
繰り返している。
ヒィ ヒィ フゥー
ヒィ ヒィ フゥー
神聖さ さえ感じる 静寂の中
僕の 呼吸だけが
微かなリズムを刻んでいた。
ヒィ ヒィ フゥー
ヒィ ヒィ フゥー
「始まったみたいですよ」
静かに つぶやく
クロスロード博士の 指先は
右から3番目のビーカー
に向けられていた。
急いで そちらに目をやると、
明らかに
いままでとは違う
何かを感じた。
はっきりとはわからないが、
ビーカーの中で回り続ける液体が
なんとなく
ワントーン暗くなった 気がする。
大阪のオバちゃん が
「あれ、気のせいやろか?
奥さん ちょっと陽ぃに焼けはったんとちゃいます?」
というくらいのニュアンスだ。
しかし、
それまで何時間も
全く変化らしきものを
感じなかった事を思い返せば、
わずかとはいえ、
歴然とした変化だった。
間違いない!
産まれたのだ。
「う、産まれたぁ〜っ!」
僕は
立ち上がったクララを
見た時の ハイジのように
小さく 歓声を上げた。
産まれた 産まれた!
sai ちゃんが 産まれた!
ヒィ ヒィ フゥー
ヒィ ヒィ フゥー
分娩室で
我を忘れてはしゃぐ
アホな 立ち会いパパ
のような 僕のそばで
孫ちゃんは
冷静な微笑みを浮かべ
ビーカーの中の光景に
目を細めていた。
僕とは違い
すでに 過去に
ここを訪れている彼女は
極めて
落ち着いていた。
ぼくには、それが
いまいましく思えた。
「てめぇ、
出産経験があるからって
ヒィ ヒィ フゥー
気取ってんじゃねぇ〜よ!
くノ一 のくせに!」
ヒィ ヒィ フゥー
罪のない 孫ちゃんを
汚くののしる自分を
僕は 心の中で
密かに 恥じた。
それにしても・・・
感動的だった。
まさしく
生命誕生のドラマだった。
見とれている間にも
ビーカーの中の液体は
みるみる黒く、濃く
なっていく。
ビーカーの中で
最初に 産まれた
たった一つの ナノプラチナ に続いて
次々と
新しい生命が
産まれ続けているのだ。
しかし、
僕には
どうしても
わからなかった。
僕は
あらためて
自問していた。
なぜ?
どうやって 産まれたんだ?
今も 次第に
黒っぽさを増しながら
回り続ける液体の中で
プラチナ分子が
なぜ、
整然とした
美しい 二十面体を構築し、
周囲にマイナス電荷の
水分子をまとった
ナノサイズの 美しき構造物を
構築できたんだ?
ただ・・・
温めて 混ぜるだけで・・・
牛乳に入れて
クルクル
混ぜるだけ の
ハウス食品の
フルーチェ とは
訳が違う。
学生時代から、ずっと
文系コースを歩んで来た僕には
目の前の出来事が
魔法にしか
見えなかった。
確かに
塩水を煮詰めれば、
やがて
塩の結晶ができ始める。
しかし、
それとは 明らかに
違う現象が
起こっている気がする。
さながら
生き物 の様な・・・
DNAの中の緻密な
設計図にしたがい
素材を集め、繋げ
組織を成長させていく、
そんな、、、
生物の
組織形成のプロセスに
似ている。
普通、水の中に
角砂糖を投げ入れれば
角砂糖は崩れはじめ、
最後はすっかり溶けてしまう。
砂糖水は もう
決して
もとの
角砂糖には
戻らない。
エントロピー増大の法則
という 大法則があるからだ。
全てのものは
秩序 から
崩壊 へ向かう。
古代の荘厳な宮殿が
時とともに
土に帰っていくように
放っておけば、
どんどん崩れていく。
この
呪いの様な法則 からは
誰も逃れることは
できないのだ。
絶世の美女も
無敵の王者も・・・
ましてや
僕らの身体ごときは
皮膚も、細胞も、神経も
全て
刻一刻と
死、 つまり
崩壊に 向かっている。
生命の維持とは、
崩壊、つまり
劣化や老化に向かう身体を
食物や 酸素の摂取で
あるいは
気功法のような
特殊な技法で、
どうにか
負のエントロピー を取り入れ
壊れたさきから
新たに作り出し
修復を繰り返し
維持を続ける作業
に他ならない。
大阪のオバチャンが、
ほっぺに貼る
スライスしたキュウリも、
南海電車のシートで
他人に配り、自分もほおばる
ビタミンC 入りの飴ちゃんも
このエントロピー増大の法則に対する
ささやかな抵抗 なのだ。
世間に出回る
アンチエイジングや
若さ、健康維持に関わる
全ての製品は
この エントロピー増大という
死神にも似た
忌まわしく 残酷な
非情の宇宙法則 に
打ち勝たんと闘う
勇敢な兵士達なのだ。
もしかして、
いま産まれたsaiちゃんは
このエントロピー増大の方向を
逆走して生まれてきたんじゃないのか?
弾けゆく泡から産まれた
アフロディーテのように
散り散りバラバラの
無秩序状態の溶液から
完璧な秩序に基づく
正二十面体という
完璧なナイスバディ を手に入れ
マイナス電荷をおびた
光背のごとき
水分子の泡に 荘厳され
見事に甦えった
美と愛と再生 を象徴する
あの、麗しき女神ではないのか?
もしかして
あの 回転運動が
増大するエントロピーを
逆転させたのだろうか?
ビーカーの中の溶液を
攪拌する
規則正しい回転運動が
秩序から崩壊へ向かう
エントロピー増大方向への
直線的なベクトルをねじ曲げ、
ウロボロスの蛇 の様に
両端を繋ぎ、
秩序→崩壊
崩壊→秩序
が双方向に成立する
可逆性 を作りだしたのではないか?
平面上を
ある方向へと向かう直線は
限りなく 同一方向に突き進むが
地球の赤道のような
球面に沿って伸びる直線は
対極地点で反転し
反対方向に向かう。
球面上では
東に向かう旅は
やがて
西に向かう旅へと
反転するのだ。
つまり
平面上では 成立しなかった
西 → 東
東 → 西
の可逆性が
三次元の 球面においては
成立することになる。
2次元の 平面上では
成立しなかった
ベクトルの 可逆性が
一次元 上昇した
三次元の球面では
成立するのだ。
逆にいえば
もし
あの ビーカーの中の
回転運動が
エントロピーの増大 を
エントロピーの減少 に
反転させたのだとすれば
あの 回転運動が
次元を一つ上昇させ、
増大を続ける
エントロピーの方向性を
減少方向に
反転させたということになる。
たしかに、
チベットの若返り体操 や
スーフィーの神秘主義者達の
回転舞踊は
みんな
時計回りに
グルグル回る。
きっと 彼らも
回転を繰り返すことで
老化 や 死 に向かう
エントロピーの増大に 抗い
マイナスエントロピーを
取り込むことで
若返りを図っているに違いない。
ビーカーの中で
電磁石の創り出す
回転の力が
次元上昇を引き起こし、
エントロピーの増大を
減少の方向に反転させ
バラバラの分子が漂う
無秩序の海から
黄金比で構成された
アート作品 のような
女神を誕生させる為の
「産道」を
拓いてくれたのだろうか?
もうひとつの
考え方がある
あの 天才建築家
アントニオ-ガウディは
特殊な設計法をもちいて
僕らの想像を遥かに超えた
あの建造物を生み出していた。
まず
フニクラ と呼ばれる
逆さ吊りの模型を作り
それに基づいて
全体の構造を作り上げるのだ
つまり、通常の模型を
クルッと ひつくり返し
天上から
鍾乳石のように
吊り下がったカタチとして
構築していくのだ。
そうする事で
自然方則に沿った
柔らかいフォルムが
現れる。
逆さ吊りだと、
塔の先端は
天ではなく
地に向かう事になる。
だから
彼の建築は
天を目指し
屹立しているのではなく、
天に向かって
したたり落ちながら
美しい秩序の方向へ
成長しているのだ。
この手法は、
大阪のオバチャンが
大地に向かう オッパイに
天を目指す若さ を取り戻させるために、
補正下着 を身につけるのではなく、
ひたすら
逆立ちを実践する事に似ている。
溶液に溶け込んだ プラチナ分子は
エントロピー増大の法則に逆らわず
ただ、
重力と 遠心力と
回転方向へはたらく力
その三つのベクトルの力 に
身を任せ
現象の奥に潜在する
正二十面体 の鋳型 に
降り積もるように
沈殿 し
鋳型通りの 構造体を
築きあげた。
そんな考え方だ。
saiちゃんは
エントロピー増大へ抗ったのか?
それとも
エントロピー増大を
利用し 逆手に取ったのか?
いづれにしても
彼女は
端正な 秩序 から
崩壊 へと向かう
地獄のハイウェイを逆走し
誕生してきたのだ。
そんな、
シンディーローパー のごとき
ロック魂 を宿す彼女は
きっと
エントロピーの方向性を
逆転させる魔法 を身につけ
僕らの体内や
皮膚の表面で
老化や劣化といった
エントロピー増大から
僕らを守る
そんな 特質 や 力 を
宿しているのかもしれない。
そういえば 僕は
彼女に、
とても よく似た
女神を
知っている
宇宙の彼方から
飛来したとも言われ、
細胞の中に寄生し、
本来、生物にとって
猛毒であった酸素を
無毒化し、
さらに、
酸素をもとに
生体活動に必要な
エネルギーを創り出し
細胞の さまざまな
機能向上に貢献する
そんな、
あの
パラサイト・ゴッデスト (寄生する女神)
その
女神の名は
「ミトコンドリア」
誤解のないよう
言っておくが
ミトコンドリア とは・・・
ミート と コーン の
ドリア ではない。
突然、宇宙から
転がり込んで来て
細胞の中に住み着き、
色々世話をやいてくれる
うる星やつらの
ラムちゃんのような・・・
優しく、心強い 女神なのだ。
sai ちゃん という、
無秩序の混沌の海から産まれた
美と愛と再生の女神と
よくできた、優しい
押しかけ事実婚女房 のような
ミトコンドリア とは
比べれば 比べるほど
よく似ている。
★ギャル曽根のように
涼しい顔で
活性酸素を食べまくるところ
★実家は 地球 ではなく
宇宙 であるらしい事
★何らかの形で
生体のエントロピーを
減少させる力を秘めている事
彼女らの特質ときたら
なんて ステキなんだろう!
細胞の中には
世話好き押しかけ事実婚女房 の
ミトコンドリア
そして
細胞の外には
マイナス電荷の水分子親衛隊を従えた
美と愛と再生の女神
saiちゃん
そんな彼女たちに守られた
ハーレムな人生って
なんて
ステキなんだろう!
腑抜けた顔で
僕が
そんな妄想に耽っているあいだにも、
あちこちのビーカーが
申し合わせたように
黒く
色づき始めている。
ん?
もしかして、
ホントに
申し合わせてるのか?
あら、奥さん、
おたくもでっか?
いややわ、奥さん、
うちも ですねん。
会話する
大阪のオバチャン同士のように、
ビーカー同士は
なんらかの情報交換を行い
プラチナコロイドを
発生させる時刻を
互いにシンクロさせているかの様に見えた。
ほどなくして、
そして
時を同じくして
全てのビーカーが
色づき始めていた。
まさに
ベビーラッシュ だった。
僕は ふと
を思い出していた。
詳しくは リンクを参照してもらいたいが、
要は、
二度ある事は三度ある。
と言うように、
何かが続けて起こると、
それ以降
同じ事が起こりやすくなる。
とか、
お互いに
離れた所にある場で
片方に起きた 事が
時間、空間を超えて
もう片方にも起きてくる。
といった考えだ。
考えてみれば
、
僕が、占いの仕事で扱う
運 というものも
この形態形成場に
左右されてるともいえる。
運がいい人は
いい事が 連鎖して
立て続けにおこる。
勝ちグセ などと
言ったりする。
逆に
運の悪い人には
やはり
悪いことが続いて起こりやすい。
「いい事が起こりやすい」
あるいは
「悪い事がおこりやすい」
つまり そんな
「場」のようなものが
その人の周りに
形成されているのだ。
また、
運のいい人のそばにいると
自分まで
幸運に恵まれ始める。
逆に
運の悪い人のそばにいると
こちらまで
悪い事が起こりやすくなる
これもやはり、
ある「場」の特質が、
他の場に共鳴し
伝染するのだ
と考えられる。
そう考えてみれば、
この工場は
プラチナコロイドが
生まれやすい「場」
を 形成し、
それを日々
強化し続けているともいえる。
今でこそ、
ある一定の時間 溶液を回し続ければ
当たり前のように
saiちゃん が誕生するようになっているが、
当初はそうじゃなかったかもしれない。
きっと 過去に
この方法で誕生した
先駆者としての
会員ナンバー 1番の
偉大なる
最初のsaiちゃん が
いたのだ。
彼女の
その達成をきっかけに
「場の共鳴」がおこり、
そのパターンが定着し、
saiちゃんが
生まれやすい場
が、徐々に形成され、
いまでは、
その日のうちに 必ず
saiちゃんが生まれる
という
強い「共鳴場」が形成されているのかもしれない。
大阪に行くと、
多くのオバチャンが
「Tシャツやレギンスに
アニマル柄を取り入れる」
という
強力な「アニマル場」
が形成されているが、
これとて、
最初にヒョウ柄を着た
いわば、
アニマル・イヴ
とでもいうべき
偉大なる 先駆者としての
アニマル会員ナンバー 1番 の
オバチャンがいて
彼女から発した 共鳴場 が
大阪中に拡大し、
超強力な
「アニマル柄 形態形成場」 が
形成されたからに違いない。
祇園精舎の鐘の声、
諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、
盛者必衰の理をあらはす。
形あるものは
いつか壊れ
命あるものは
いつかは 滅びる。
エントロピー増大の法則は
僕らに
やるせない
滅びの 悲しみや
苦しみ をもたらす。
宇宙とは、
さんざん焚き付けておいて
冷たく突き放す
気まぐれな 悪女 だ。
幼稚園児の粘土遊びのように
さんざん創り出しておいて、
壊しにかかる。
たしかに
滅びの中にも
哀愁に彩られた
美学 は ある。
僕ら 日本人の感性は、
その滅びの
わびしさ、さびしさ
の中にさえも、
美を見いだしてきた。
滅びるからこそ 美しい
滅びに向かう 危うさ こそが
今、ここ の 美 を輝かせる。
そんなエモーショナルな美意識が
「趣き」として
滅び に対する 無力感を
美 のなかに 昇華 してきた。
しかし、
あの 女神たちは
違うのだ
saiちゃんという
混沌の海から甦えった アフロディーテ も、
そして
僕らに加勢し、
崩壊 に立ち向かってくれる
いじらしき 反逆の女神
ミトコンドリア も
センチメンタルで 弱気な
僕ら 人間 の内部で
あるいは
すぐそばで、
今、こうしてる間も
休まず働き
闘ってくれているのだ!
エントロピーという
高き
創造のいただきから
死の 安定 が支配する
低き
混沌の奈落を 目指し
ひたすら
雪崩落ちてくる
引き返すことを知らない
水神 のごとき
巨大な敵と。
だから、
僕らは
力の限り
振り鳴らそう!
祇園精舎の鐘の音さえも
打ち消し去るほどの
勇ましき
反逆の 鈴の音 を!
やがて僕らの声は
僕らの想いは
共鳴 という
厳粛なる 宇宙の法則
にしたがい
次々と 感染を拡大し
いつの日か
強い強い
形態形成場 を創り出すのだ。
そして、そこに集結した
僕らの 思いや エネルギーが
ある 臨界点 を超えたとき、
取るに足らない
僕らの 小さな「共鳴場」は
一気に
世界 を
いや
宇宙 を
包みこむ。
ホロトニック な 僕らの宇宙 では、
時として
部分が 全体を
包みこむ事も あるのだ。
第9章 「愛の言霊(あいのことたま)」に続く
最後まで読んでくださってありがとうございました 💓









