ラーメンでも製造業でも、たった一つの工程の乱れで全体の質は簡単に落ちる。
若い頃は「そういうものだ」と流していたが、40代になって、その当たり前が骨身にしみるようになった。
先日、客先のラインで検査工程の順序を一つ入れ替えた。
作業時間は3分伸びるが、不良率は目に見えて下がる。
現場では、こういう地味な一手が一番効く。
「この3分は最後の1%を守る時間です」と説明すると、工場長が「職人みたいだな」と笑った。
その言葉を聞いた帰り道、頭に浮かんだのは、馴染みのラーメン店主の姿だった。
閉店前でも香りを落とさないために、香味油の温度を1度刻みで調整し続ける人だ。
端から見れば執念だが、やっていることは極めて合理的。
丼に映るのは根性論ではなく、設計と運用の積み重ねだ。
妥協そのものは悪じゃない。
現実と交渉するための大切な手札でもある。
ただし、どこで妥協しないかを先に決めておくことが、品質の芯になる。
製造なら「安全・品質・納期」の順番は崩さない。
ラーメンなら「温度・塩分・香り」。どれかを落とせば、記憶に残る一杯にはならない。
だから案件立ち上げのとき、俺は“不譲歩項目”を手帳に書く。
譲れるところは簡略化し、時にはやらない。
その分、譲れない部分に時間と人を集める。
こだわりとは根性ではなく、資源配分の意思決定だ。
「香りは度数で嘘をつかない」という店主の言葉が、現場の数字と重なる。
トルク、寸法、タクト。その裏には人の手の温度がある。
最後の1%は見栄のためじゃない。
翌週も、来月も、同じ品質を出すための土台だ。
「最後の1%=温度1度、工程3分」。
次の現場でも、次の一杯でも、その線は越えない。
結局、仕事もラーメンも、そこに尽きる。